月曜日が来ない #6

 映画を見た。私が小さい頃によく見ていた、巨大生物が街を壊す映画の最新版だった。映像技術は昔に比べ格段に良かったが、小さい頃と同じような興奮を味わうことが出来なかった。

 動物園へ行った。久しぶりだったせいか、入ってすぐの檻に入った、様々な鳥たちの姿に興奮した。そのせいで、園の奥の方にいた主役級の動物たちを見る頃にはすっかり疲れ果ててしまった。

 美術館へ行った。オランダ出身の、死後に注目を浴びるようになった画家の個展だった。絵よりも人の後頭部を見る時間の方が長かった。一輪の大きな花を描いた作品は、前評判よりも大したことなく見えた。

 山を登った。登山用に作られたわけではない、スニーカーで登ったせいか、下りでつま先が痛くなった。登りでかいた汗がひいて身体が冷え、寒かった。

 ボウリングをした。爪が長かったせいで、二投目に爪が割れ、利き手と反対で投げることになった。三回続けてスペアは出たが、ストライクを一度もとることが出来なかった。

 ユトリと過ごす日曜日は何日も続いた。私は日曜日が来るたびに、つまりは毎日ユトリと出かけ、帰りには必ず、新宿にある老舗の喫茶店で、タバコを吸いながら、コーヒーを飲んだ。今日は、カラオケに行き、三時間ユトリと交互に、二十年近く前に流行ったポップスを中心に歌った。退室する間際に入れた曲が、7分を超える大曲だったせいで、時間超過とみなされ、30分の延長料金を取られた。そのことに不平をぶつけている私の向かいには、ニコニコとしたユトリが、熱いコーヒーに息を吹きかけながら啜っていた。

 その日の不平不満を私が延々と話し、ユトリはそれをニコニコと聞くのが、その日を終えるためのルールかのように、私たちは同じ店の同じ席で、毎日繰り返した。喫茶店のスタンプカードはもうすぐ20個目のスタンプに達しようとしていた。20個たまるとコーヒーが一杯無料でもらえるとのことらしい。

 一通り私の愚痴が終わると、ユトリに明日は何をしたいか聞いた。ユトリが行きたいところを聞き、例外なくその場所へと赴いた。ユトリのしたいことは、自然と私もしたいこととなった。何よりもユトリが楽しそうにしているのを見るのは、気分が良かった。そしていつの間にか、明日も日曜日であるということに、疑いを持たなくなっていた。明日は、丸の内を歩こうと決まった。今日もまたユトリが、イルミネーションを見たいと言ったからだった。本来ならばあと数日もすればクリスマスであったが、暦が12月になることは永遠になさそうであった。15時に東京駅に集合とだけ決め、私たちは店を出ることにした。

 「朝6時にこの場所で。」

 先ほど決めた集合時間は、たった数十秒のうちに覆った。しかも私の提案によってだった。二階にある喫茶店を出て、階段を降りたところに、客の行く手を阻むように立っていた電信柱に、ポスターが貼ってあったのだ。ポスターには歌舞伎町を代表するような顔をしたホストが、ピンクと黄色の背景の中、巨大なゴミ袋を背負ってこちらを向いて笑顔を見せつけていた。そしてその雰囲気にはまるで似つかわしくないような毛筆の字で、「歌舞伎町の朝は美しい」と大きく書かれていた。

 どうやら歌舞伎町で水商売をしている人々を中心に、ゴミ拾いをしているらしかった。彼らからゴミ拾いをしている姿を想像するのは難しかったが、ひどく興味を惹かれた。毎日毎日遊んでいる日々に、疲れてしまったのだろうか。少しだけ罪悪感が生まれたのかもしれない。いずれにせよ、このゴミ拾いに参加しようと思った。イルミネーションは、夜でなければ輝かない。

 ユトリは少しだけ意外そうな顔で私のことを見たが、すぐに分かったと返事をしてくれた。

 ポスターの下の方には、青のゴシック体で、11月29日(月)6時半開始と書かれていた。



続く

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