月曜日が来ない

 別に怒られるわけではない。しかし、月曜日に会社へ行くということは、なぜこんなにも私の足取りを重くさせるのだろう。会社に行ってさえしまえば、周囲の人々ともそれなりのコミュニケーションを取ることはできる。しかし、月曜日の朝はなぜこんなにも起き上がれないのだろう。月曜日さえ過ぎ去ってしまえば、週末まで会社に通うことに強い葛藤はない。しかし、なぜ日曜の夜はこんなに眠りたくないのだろう。数々の月曜日の苦難を前に、決まって私は心の中でつぶやく。ああ、月曜日なんて来なければいいのに。

 学生時代の友人と久々に会い、酒を飲み交わした。彼らの口からは、数々の思い出が、当時の状態から少しも変化することなく極めて新鮮に語られた。誰が誰を好きだった、あの先生が嫌いだった、まるで昨日起きたことのように熱を帯びて語られ続けた。私も彼らに負けじと、誰も覚えていないような記憶を引っ張り出し、懸命に語ったが、必ずと言っていいほど誰かが覚えていて、新たな議題の中心へと成り上がった。会話の切れ間をついて、ふと誰かが言った。「明日月曜日だから帰るわ。」

 場の空気が一気に冷めるということはなかったので、それぞれが同じ思いを抱いているということだろう。実際に、21時を回ってからは、皆一様に携帯を見る回数が増えた。月曜日のことを考えているのだ。年の瀬の聖なる夜に、愛する人を想うのがクリスマスイブなら、よっぽど日曜日の夜に月曜日のことを考えている人の方が多いだろう。このまま時が止まればいいのに。愛する人などいないが、この聖なる日曜日の夜に、私は強く願った。月曜日なんて来なければいいのに。


 こめかみの辺りがずきんと痛んで目が覚めた。まだアラーム鳴る前に起きてしまったことを瞬間的に悔いた。それくらい、月曜日の朝は身体が覚えてしまっている。昨晩飲んだ緑茶割りの焼酎のせいだろうか、身体から水分が抜け落ち、頭が重たい。最悪のコンディションで月曜日の朝を迎えることになり、自己嫌悪に陥った。幸い、アラームまではあと1時間はあった。のそのそと起き上がり、冷蔵庫から2リットルの水を取り出し、一気に飲んだ。身体中に水分が染み渡り、気持ちが良かった。立ち上がった力を利用して、トイレへと行ったが、小便は目薬の瓶ほども出なかった。寒気がし、慌てて布団へと戻った。まだ自分の身体で温まったままの布団が私を迎え入れてくれた。再び目を閉じ、いつものように私は思った。ああ、月曜日なんて来なければいいのに。

 アルコールが体内に残っていると、一度目覚めたあと、再び寝つくことは困難である。目を瞑っていても、一向に意識がなくなっていく気配がない。私は携帯を三度ほど手に取り時間を確認した。アラームの時間までは45分を切っていた。あと45分で、私の定める月曜日の始まりだった。瞼と自意識との戦いはその後も続き、負けを確信した私は四度目の携帯を確認する作業へと移った。携帯の電源ボタンを押し、違和感に気づいた。液晶画面が点くと日付と曜日、時間が表示されることになっているのだが、その表示がおかしいのだ。時間の表記に問題はなかった。アラームまでの時間はあと30分ほどであった。しかし今日は月曜日のはずなのに、携帯電話の表記は日曜日だった。来るはずの月曜日が、来なかったのだ。



続く

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