職務定義を作成する ~事例から学ぶ、プロダクトマネージャーのキャリアラダー設計③~
はじめに
ここからは、本連載の中心となる、プロダクトマネージャーの職務定義について説明していきます。
本記事では、具体的な構成要素の解説や設計プロセスに入る前段として、優れた職務定義の全体像について説明します。
まずはじめに、職務定義のユースケースを整理します。そこから、優れた職務定義が持つべき要件と構成要素を洗い出したいと思います。
優れた職務定義の全体像をイメージしていただくことを目的に置いて、次回以降の記事で各構成要素とプロセスの説明をいたします。
職務定義のユースケース
職務定義のユースケースは「組織設計」、「人材採用」、「人事評価」、「メンバー成長」の4つがあります。具体的な活用シーンは以下のとおりです。
以上のような活用シーンで効果的な情報源となる職務定義が「優れた職務定義」であると考えています。
では優れた職務定義とするためはどういった要件をもつ必要があるでしょうか?
優れた職務定義が持つべき要件
優れた職務定義には以下の3つのポイントがあると考えています。
役職ごとに具体的で行動可能な指針が示されていること
企業文化・価値観に根ざしていること
視座を広げたり上げられること
それぞれ説明していきます。
役職ごとに具体的で行動可能な指針が示されていること
具体的で行動可能な指針が示されていることは職務定義にとって最も大切なポイントです。
具体的で行動可能であることで、従業員にとって自分のはたすべき職責がはっきりわかるため、自律的で効果的な業務が可能となります。また、自身に足りていないところも明確になるため、成長を促進することにも繋がります。
人事評価をする際にも効果を発揮します。
具体的で行動可能であるため、客観的で納得感のある評価を下すことができますし、主観による評価者間・被評価者間でのばらつきを抑えることができるため、平等な評価にも繋がります。
経営陣にとっても、役職すべてに具体的で行動可能な指針が示されていると個人の能力に依存しない安定的な組織設計を実現することが可能となります。
企業文化・価値観に根ざしていること
組織文化研究の第一人者であるエドガー・H.シャインによると、企業文化とは「企業がいままで乗り越えてきた課題に対する成功体験の集積」と定義されています。
企業の価値観(バリュー)は企業文化のエッセンスを抽出し明文化したものです。
多くの従業員が企業文化・価値観を獲得することで、企業の独自性が増し、競合優位性を獲得することに繋がります。
企業文化・価値観に根ざした職務定義を設計することで、従業員の企業文化・価値観の獲得に大きく貢献することができます。
視座を広げたり上げられること
職務定義には求められる要件を網羅的に記載し、すべての役職に対して用意するべきです。
そうすることで、従業員は今の自分に足りていないところ、次のキャリアに進むにあたって足りていないことを具体的にイメージすることができます。
プロダクトマネージャーは特に多忙かつ日々発生するタスクや課題の解決に目を奪われがちなため、自分があるべき姿を見失いがちです。
そこで、職務定義を定期的に見返すことで、高く広い視座を回復してあげる仕組みが求められます。
職務定義の構成要素
優れた職務定義の要件をどのように具体的に職務定義として記述するればよいでしょうか?
以下の構成要素に基づいて記述することで、優れた職務定義を作成することができます。
構成要素だけではイメージがしづらいので、GitLabのプロダクトマネージャー職の職務定義をもとにして各要件がどのように記述されているか見ていきます。
役職ごとに具体的で行動可能な指針が示されていること
「期待される役割」の具体的な行動指針を見てみましょう。
「担当領域において、競合他社、どのようにGitLabが比較されるか、埋めるべきギャップや先行できる機会について高いレベルで理解する」に代表されるように非常に具体的な行動指針が示されているのがわかると思ます。
企業文化・価値観に根ざしていること
GitLabでは「期待される役割」の企業文化に根ざしたPdMのコアバリューを「Sensing Mechanisms」、「Product Roadmap & PLG(Product Lead Growth)」、「Aligning Teams with Values」、「Thought Leadership」の4つで定義しています。
どれも短くまとまっていながらも価値観を反映した非常に洗練された表現になっています。
また、「求められる人物像」のマインドセットにも非常に具体的で様々な記述が含まれており、企業文化を明瞭に表現していることがわかるかと思います。
視座を広げたり上げられること
職務定義全体を通して、プロダクトマネジメント、ステークホルダーとの関わり合いなど様々な視点からの記述がなされていることがわかると思います。
また、役職ごとにこういった記述があるため、今の自分に必要なこと、次のステップに進むために求められることが非常にイメージできる様になっています。
職務定義の全体像をイメージいただけたと思いますので、次回以降では具体的な各項目の説明に移っていきたいと思います。
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