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『フィスト・オブ・ザ・ノーススター~北斗の拳~』が素晴らしいという話③~バット編~

こんにちは、織葉です。
今回はバットの見所を軸に、感想を書いていこうと思います。
乱世で孤独に生きる少年バット。ケンシロウと出会い、どう成長していくのか…
無垢な部分の残る少年だからこその、繊細な心の成長が見事に表現されていました!
それでは行きましょう!

バット(渡邉蒼)

初演に引き続き、バット役を務めるのは渡邉蒼さん。先日10/14に18歳になり、新成人となりました。おめでとうございます!!
初演で初めて蒼くんバットの歌を聴いたとき、一瞬で魅了されたことを覚えています。声の伸び、歌の力強さと繊細な表現力、キレっキレのダンスと体感の良さ…あげたらきりがありませんが、とにかく多才な蒼くんに一瞬でファンになりました。


ずっと一人で生きるのは怖い

1幕序盤、夫婦から井戸水が出る村の場所を尋ねられるバット。
「情報はタダじゃないぜ…?」と、夫婦にとって貴重な食料である「なけなしのベーコン」を半ば強引に奪い取ります。荒廃した世界では、食料は奪ってでも手に入れなきゃ生き残れない。まさに弱肉強食…
ちなみにこの「なけなしのベーコン」というワード、しばらく頭から離れなかったので、ベーコンブロックを買ってまるごと焼いて食べました。

そして始まるM4『暴力バンザイ』
「誰がこんな世界にした?責任とれよ」
「死ぬのは怖くない。でもこのまま、ずっと一人で生きるのは怖い」
この歌での蒼くんバット、ポップに歌い上げながらも、怒りや不安、恐怖が表われていて、それと対照的な最後の部分、
「いつか 見つけるぞ 信じあえる仲間を!」
の力強さが本当に印象的!孤独と闘いながら、「仲間」や「愛」を求めるバット…。頼れる大人も仲間もいない状況で生き抜くって、考えるだけでつらいですよね…。それが子供であればなおさら。でも、「仲間」や「愛」って、老若男女問わず、そして時代を問わず永遠のテーマ、ですよね。

このシーン、わたしが初演と再演と両方観て感じたのは、再演でのバットは、初演よりも表現が「嫌な大人」に近づいていたことです。
初演と再演の期間は8か月。歳を重ねてしまったわたしにとっては、8か月なんて一瞬で過ぎ去る時間です。
しかし大千穐楽でのカーテンコールで、蒼くんがバットと共に生きる上でこう感じていたと言っています。
「バットは永遠にできる役じゃないですし、初演から再演にかけて、自分の声とか身体とかが大人になっているのをすごく感じていました」

わたしが一瞬で過ぎ去ったと思った8か月、蒼くんは確実に大人になっていっていました…。バットが「嫌な大人」になったと感じたのも、蒼くんが大人に近づいたからこそ、等身大でバットを表現したからなんですね。
役者さんはすごいなあと改めてため息をついてしまいます。

未来への希望を見いだせず、一人で生きているバット。まだ自分が生き残ることが第一優先。牢番のリンから鍵を奪おうとしたり、ケンシロウと組むために知らない情報を知ってると言ったり。客観的に、人間としての優しさが失われてる状態をみると、ふと、自分も同じ状況だったら同じことをするのかもしれない…と思います。

親を殺された少女リンへ向けた、バットの
「子どもなんか邪魔なだけ。生まれてこない方がよかったんだ!」
というセリフ、バットが自分自身にも向けた言葉のようだなと思います。つらい。


薄情なバカ息子

ケンシロウ・リンとともに旅をするなかで立ち寄ることになった村で、バットは過去に自分を救ってくれ、面倒をみてくれた母親代わりの女性『トヨ』と再会。バットはトヨに助けてもらいましたが、とある理由からある日突然トヨの元から姿を消しています。
「薄情なバカ息子!」とトヨに言われ、再会できて嬉しいくせに、照れ隠しで「ババア!」とか言っちゃうあたりは、現代の中高生と一緒ですね(?)トヨと仲良く喧嘩している光景は、幸せが見え隠れして、にんまりしちゃいました。


尊厳さえ踏みつけられてきた

1幕のラスト、拳王軍の兵士に村を襲われ、「忠誠を誓う」か「死ぬか」の選択を強いられます。守ってくれていたケンシロウが不在のなかで、村人は「自由がなくても死ぬよりはマシだ」と、忠誠を誓おうと話します。

しかし、「私は、嫌。」と、リン。
ケンシロウから学んだ、最後まで人間としての尊厳を捨てない強い心を見せつけました。リンの決意を見たバットは、震える身体を奮い立たせ、ついに暴力に立ち向かいます。

 ここが、もう…良すぎて。バット、震えてるんですよ。リンと一緒に歌うその直前まで。民衆の中に紛れて、目を背けて、震えてるんです。でも自分よりも年下で、か弱いはずの少女が、兵士に詰め寄られても殴られても、「(忠誠を)誓いません!」と言い切るまっすぐな瞳を見て、ついに自分自身も闘うことを決意するんです。誰よりも敵の前に立って手を広げて、みんなを守ろうとするんです。ここで歌われているM10『最後の真実』は本当に鳥肌もの…
 
『最後の真実』については、またリンの感想回で詳しく書きたいと思いますが、このシーンがバットが大きく成長した瞬間であり、きっかけなのかなと思っています。


みんなは、俺の愛する家族だ!!

ついに村までケンシロウを追ってきた拳王(ラオウ)。ケンシロウとトキが闘える状態ではなくなり、レイも拳王の闘気を受けて倒れたその瞬間、バットとリンは拳王の前に立ちふさがり、両手を広げて民衆を守ります。
「みんなは、俺の愛する家族だ!」と…

かっっっっっこよすぎる…。絶対に勝てない相手に立ちふさがってにらみつけるバットとリン…
きっと、勝てる勝てないの問題じゃないでしょうね、ただ失いたくない。守りたい。その願いが身体を動かしたんだと思います。
子供たちの心の強さが本当にかっこいい…

拳王の闘気で民衆を殺され、育ての親トヨも瀕死の状態に。バットはトヨとの最後の別れと対峙します。
現実を受け止めきれず、トヨから離れるバットですが、ケンシロウに「最期だ、母さんと呼んでやれ」と促され、トヨに寄り添うバット。
「母ちゃん…死んじゃ嫌だ…!」
泣きながら育ての親であるトヨを抱きしめるバット…この瞬間は、バットが唯一、『子供』でいられた瞬間だと感じました。強く生きること、孤独に耐えることを世界から強いられてきた日々で、唯一トヨだけが、甘えられて、甘えることを許してくれる存在だったのかもしれません。純粋な子供として、母に死なないでと懇願するバット…。

「バット、生きるんだよ。生きていれば、きっと…」そう言い残し息絶えるトヨ。トヨを抱きしめ泣きじゃくるバット…この世界は、子供からも容赦なく奪うんだな…と、ツラすぎ…

トヨの死をバットがどう受け止め、乗り越えたかについては、ミュージカル内で明言されていません。しかしわたしは、バットがトヨから愛や想いを受け取り、それも力に変えて、未来に向かって生きていくことを決意していると思っています。

わたしがそう思う理由は、『種もみ』です。

以前の記事『②~ケンシロウ編~』のチャプター『覚醒』にて、1幕のラストでケンシロウが仲間への愛と、その愛を失ったことへの哀しみを力に変えて、覚醒するシーンについてお話しました。

その時に、仲間がケンシロウの覚醒を鼓舞するんです。その中にバットもいます。その手に、種もみの袋を携えて。これも同じく『②~ケンシロウ編~』のチャプター『守り育て 羽ばたかせるためだ』にて少しお話したシーンですが、このミュージカル『北斗の拳』において種もみは、「明日への希望」なんです。

ミスミ爺が大切に村に持ち帰り、拳王軍に村が襲われたときには、兵士に切りつけられ息絶えても、種もみの袋を手放しませんでした。そしてその種もみを受け取ったトヨの命も、拳王に奪われてしまいます。しかしその種もみが、ケンシロウの覚醒シーンで、バットに受け継がれているのです。
バットが、自分の意志でみんなの「明日への希望」を受け継いたんだ…!と。弱くてずるいバットはもういない。暴力に屈せず、未来に希望をつなぐ一人の人間に、バット自身も覚醒したのだと思います…。
はぁ…見どころが多すぎて目が足りないですよほんと…


いま、戦え!

2幕中盤、ケンシロウは世界を救うため、村を離れることになりますが、ケンシロウは民衆を心配し、村を離れることを躊躇します。
それを見たバット、「村は俺たちで守るから」とケンシロウに村を出ることを後押しします。

ここで歌われるM10A『心の翼(リプリーズ)』
大人になることを諦めていた過去の自分を振り返り、リンと共に
「今なら信じられる 未来は自分自身だ」と歌います。

今のバットには、守りたいと願い、信じられる仲間が、そして未来への希望があります。暴力に従わない強い心をケンシロウから学び、その決意をケンシロウに見せつけました。

その決意を受け取ったケンシロウは、バットの頭を撫でようとした手を止め、その拳をバットの胸に当てるんです。そして一言「任せたぞ。」
この時のバットの嬉しそうな「任せとけ!!」がイイッ!!!ケンシロウから認められるって相当嬉しいよね…!やったねバット…!!(誰目線)

ケンシロウが村を後にする直前、離れた場所からバットと拳を向け合うのもイイ…男同士の固い約束ってやつですかね…かっこいい。あれ一緒にやりたかった…(?)

ケンシロウを見送り、仲間の存在と絆を再確認するバット。
今のバットには、たとえ不安になってしまったとしても、一緒に戦ってくれる仲間がいます。

「大切なものをこの手で守るためいま 戦え!」

かっっっっっっこいい!!!!
最後の「戦え!」の部分はバットのソロ。
このソロに入る前に、仲間のみんなのことを見渡すんです。仲間の存在を確認してから改めて、「戦え!」と歌うんです。
あぁ、バットにはいま、仲間がいっぱいいて、そこには絆があって、一人じゃないんだなぁ…って。
一人孤独に生きていたバットを知っているからこそ、このシーンには何度観ても胸をアツくさせられました。


未来へ

ラストでは、ケンシロウとの別れを経て、バットとリン、そして仲間と共に、未来を見据えて力強く空を見上げるシーンで幕を閉じます。
きっとその空は、綺麗な青空なんでしょうね。
ケンシロウと出会っていなければ、大人になれず死んでしまったかもしれないバット。
バットの目指す未来は、青空であってほしいです。

蒼くんの演じるバットは、純粋さや、迷いや戸惑い、仲間を知って成長していく心の変化を、ポップにダークに色鮮やかに、等身大のお芝居で表現されていました。
もしかしたらもう蒼くんが演じるバットには会えないのかもしれないと思うと本当に寂しい。
でもわたしは、もしこのミュージカルがこの先もずっとずっと続いていくのなら、いつかケンシロウ役を蒼くんが演じてくれたらいいな、と思っています。大貫さんから蒼くんへ。この物語がケンシロウからバットへと想いが受け継がれているように。

渡邉蒼くん、蒼くんのお芝居を通して、何度も心がカラフルになりました。初演も再演も、心をいろんな感情に動かしてくれて、本当にありがとうございました!!

読んでいただき、
本当に本当にありがとうございます!
次回はリンちゃん編!



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