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「考えすぎの私」と「考えなさすぎの恋人」

「貴方は考えすぎ」
恋人によく言われる言葉。

私は昔から空想が好きな女の子だった。
お菓子のお城、可愛いドレスを着た私、白馬に乗った王子様。
甘い妄想はどこまでも膨らんで、人の話を全く聞かずに怒られることも多々あった。
自分はきっと少女漫画の主人公みたいにイケメンなヒーローに一途に溺愛されるんだと、そう信じて疑わなかった。

それから数年で、私の夢は見事にぶち壊された。
自分を駒としか思っていなかった友達、元カノを忘れるために私を利用した男、可哀想な自分が大好きな男、価値のない自分。
私の妄想はどんどん少なくなっていった。
大好きな考え事が、私をどんどん苦しめた。

その代わりに、「自分が傷付く事態」を回避するために沢山のことを予測して回り道をする癖がついた。
信じたってどうせ裏切られて傷付くから。
好きになったってどうせこの好意すら利用されるから。
人並みの幸せなんか願ったって、真実の愛なんか望んだって。
考える量に比例して、自己肯定感もどんどん下がっていった。私には生きる価値も意味もない、とまで思うようになった。

そんな時に、今の恋人に出会った。
彼女は、いつも甘い香りのする人だった。
女の子にしては低い、心地のいい声で話す人だった。たまに大きな通る声で笑って、だけど不快な感じはしない笑い方をした。笑うと大きな黒目が見えないくらいの糸目になる、可愛い人。
私が悩みを話すと真面目に聞いてくれて、最後には「まあ、別にいいんじゃない?」と考えを放棄したみたいに匙を投げてくれた。それが私はなぜだかとても嬉しかった。そんな適当で優しい彼女が好きだった。

出会って半年ほど経ったある日、私は彼女に電車の中で告白された。
一生片想いで終わるはずだった恋が思わぬタイミングで実って戸惑ったけれど、とても嬉しかった。

それから1年が経つ。
私の恋人は相変わらず少し適当で、とても優しい。付き合う前より低い声で力なく喋る彼女は、私が悩んでたりすると面倒くさそうに、だけど少し嬉しそうに相談に乗ってくれる。
「貴方は考えすぎなの!」
そう言って強く手を握られると、私は決まって泣いてしまう。その手の温もりに、私はまだ慣れない。
「私は考え無さすぎなのかもね」
この前、彼女はそんなことを言っていた。

あのね、私はそんな貴方が好きだよ。

考えすぎる私と、考えなさすぎる恋人。
相性はそこそこにいいみたいです。

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