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アマゾンプライムお薦めビデオ② 95:分かりやすさの拒否としての演劇とドキュメンタリー:映画『演劇1』そして『演劇2』

今回お薦めする映画はこちら。ドキュメンタリー監督想田和弘氏による観察映画の第3弾と第4弾となる『演劇1』と『演劇2』です。二つ合わせると5時間45分になりますが、対象となった平田オリザ氏を描き出すのであれば、これぐらいは必要ということでしょう。

平田氏は演劇人であると同時に教育者でもありますが、教育者としての平田氏は常々「他者の立場に立っての想像力を育成することが今の時代必要。それがコミュニケーション能力の育成につながるし、そのためには演劇教育が役立つ」という趣旨のことを述べています。ということで演劇教育として子供たち(大人相手の場合もありますが)に指導する場合は、ある程度自由にやらせているのに、自分の劇団で演出を担当する場合は、秒単位の間合いや声の大きさや高さに非常にこだわります。劇団員はその指示にある意味したがっているロボットのようであり(実際にロボットを使った演劇もしています)、そのギャップが常々謎だったのですが、この5時間45分というある意味苦行を経て、それが分かったような気がします。自分の劇団での演劇の場合、それはあくまで見せるものであり、そこで想像力を使ってもらう対象は役者のほうではなく観客のほうだからです。映像作品に比べ舞台は不親切です。基本的にセットは固定されたままですし、観客も基本的には自分の席からしか舞台をみることはありません。つまり視点も固定されているということです。だからこそ、舞台劇を見る者にはある種のスキル、見えているもの、聞こえているものから、そこに見えているもの、聞こえているもの以外のことも考える想像力が求められます。つまりは、観客の想像力をいかに引き出すか、分かりやすくはない状況の上でで、いかに観客に分からせるか、考えさせるか、が舞台演出家の腕の見せ所なのです。秒単位、音単位の演出に平田氏がこだわるのはそれが故のことなのでしょう。

そして同時に「観察映画」を謳っているこの映画の監督である想田和弘氏もそれを狙っています。この映画、ナレーションもないですし、ひたすら平田氏の活動を延々と追っているだけです。平田氏について劇団員にインタビューなどもしません。しかし、さきほど「苦行」と書きましたが、実は見ている側としては「苦行」などではまったくなく、むしろ時間が過ぎるのが速くさえ感じます。というのも、この映画を見ている間、ある意味脳がフル回転している(させられている)からでしょう。そう、分からないからこそ、説明がないからこそ人は考えるのです。あの名作『2001年宇宙の旅』においても、台本の段階では書かれていたナレーションをキューブリック監督はすべてかっとしたそうです。だからこそ、あの映画を見ると人はあれこれと考えることになり、それゆえに「名作」となっているのです。

と、とにかくこの映画、平田や演劇に興味がない人にもお勧めです。むしろ興味がない人ほど、いろいろと考える(考えさせられる)ことでしょう。劇団経営にまつわるお金の話など「えっ、ここまで見せちゃうんだ」というほど包み隠さずカメラは映し出しますし、平田氏もそれをなんのてらいもなく見せてくれます。映画の楽しみ方はストーリーを追うことでも、映像の美しさを楽しませることだけでもないんだ、という新たな映画の楽しみ方の発見がここにはあります。


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