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21. テクノロック?という試み:マニュエル・ゲッチングの『INVENTIONS FOR ELECTRIC GUITAR』

さて、ここ数回はアンビエントやテクノポップと言ったジャンルが生まれたころの音楽を見てきたが、そのような中で、ジャンルとしては確立はしなかったが、恐らく後のクラブミュージックには大きな影響を与えたであろう、「テクノロック」とでも言えるような音楽の存在にも光を当てたい。その代表格がやはりこれもドイツのミュージシャン「マニュエル・ゲッチング ( Manuel Göttsching)」である。今回紹介するのは1975年の隠れた?名作『INVENTIONS FOR ELECTRIC GUITAR』である。

さて、この作品、「エレキギターのための発明」と名付けられているが、何が発明なのかと言うと、一言で言えば、「エレキギターでもテクノやアンビエントや電子音楽はできるよ(ていうかエレキギター自体がそもそも電子音楽なんだけど、、、)」、ということであろう。事実、この作品、聞いただけでは、明らかなリードの部分以外はどの部分がエレキギターでどの部分がシンセなのか分からないような出来になっている。しかし、これは同時に次のような疑問も呼ぶであろう。「シンセでできることがエレキギターでもできることは分かったが、でも、じゃあ、最初からすべてシンセでいいんじゃない?」と。

そしてそれに対する私の勝手な理解でのマニュエル・ゲッチングの答えは、「グルーブ」と「歪み(ひずみ)」ではないだろうか。今でこそグルーブも歪みもコンピューター上で出せるが、しかし、この時代はそうではなかった(コンピューターは計算された以外のものは出せないので)。敢えてずらすこと(というかこのアルバムではギターが前面に出る部分以外ではこれはそれほど確認できないが)、敢えて音を割ること、それは計算外の作用であり、それを取り込むことで、テクノもアンビエントもより幅が広がるはずだ、機械か人間かではなく、両者の特徴を把握したうえで、では何ができるか、買い被りかもしれないが、それがマニュエル・ゲッチングの答えだったのではないだろうか。そしてその「答え」はこのアルバムで見事に「結果」を出している。ここで言う「結果」とは、今聞いても決して古くない、ということである。前回紹介したクラフトワークの『アウトバーン』は確かに今聞くと「古く」聞こえることは否めない。前回も書いたがそれはテクノロジーの問題である。しかし、そこに人間の手でひと手間加えることによって、より具体的には「グルーブ」と「歪み(ひずみ)」を加えることによって、その「老朽化」を防ぐことができる。マニュエル・ゲッチングが提起したこの方法は当たっている(原題でも通用するという意味で)。今の時代のテクノやアンビエントはそういう作品であるし、さらに言えば、今の時代の音楽再生家であるDJ(ここでの再生はただ単に音楽を変えることではなくそれを再び生き返らすことを指す)は、古く聞こえそうな音源があれば、それにエフェクトをかけて、それを生き返らせるのである。

ということで話は一足飛びにクラブカルチャーにまで飛んだが、そのぐらい話が飛ぶほど、この1975年の作品はまだ色あせていない。ということで、お薦めです。是非お聴きください!


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