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今シーズンのNFLで導入される注目の新サービス 〜前編〜

こんにちは、PLMキャリア の保坂です。
9月になり、涼しい日も増え“スポーツの秋“の到来を感じる季節となってきました。 そんな9月ですが、海の向こうアメリカでは新学期の季節に加えて、全米ナンバー1の人気を誇るプロアメリカンフットボールリーグであるNational Football Association 通称 “NFL”が開幕する季節でもあります。

スポーツ大国アメリカ(と一部カナダ)には、他にも野球のMLB、バスケットボールのNBA、アイスホッケーのNHL、近年その人気が高まっているサッカーのMLSなど様々なプロスポーツリーグがありますが、その中でもNFLの人気は絶大で、規模も含めてダントツと言っても過言ではありません。
そんなとてつもない影響力を持つ全米ナンバー1スポーツの現場や周辺では、やはり毎年新たなサービスが立ち上がり、様々な取り組みが導入されています。
今回の記事では、NFLの2022-23シーズンの開幕に際して、個人的にビジネスの観点から注目したい2つの新サービス(取り組み)を前編と後編の2つに分けてご紹介したいと思います。

 「NFL +」のサービス開始

無料で地上波放送を観ることができる日本とは異なり、アメリカでは基本的にテレビを視聴すること自体にお金がかかります。具体的にはケーブルテレビへの加入が長らく一般的な視聴方法だったのですが、近年はNetflixやAmazon Prime Videoなどインターネット経由の動画ストリーミングサービスが普及したことで、高額なケーブルテレビの契約を解除し安価なインターネットストリーミングサービスでの動画視聴を選択する“コード・カッティング”という動きが進んでいます。そんな中で既存のビジネスモデルからの変化を強いられているテレビ局において、ライブ映像の視聴価値が高いスポーツ放映権の需要が増しており、その放映権料は高騰に次ぐ高騰を続けています。 こういった背景のもとNFLが先日新たに発表したのが、『NFL+』という独自のサブスクリプションサービスの導入です。

このサービスは、月額4.99ドルまたは年額39.99ドルから利用することができ、加入者はスマートフォンやタブレットなどの携帯端末で、ローカルとプライムタイムのレギュラーシーズンとプレーオフの試合のライブ中継にアクセスでき、かつすべての試合の音声をライブで聴取できるというものです。

これだけ聞くと既存のスポーツ視聴ストリーミングサービスとの大差は感じられないかもしれませんが、このサービスのユニークなところは、“テレビでは観られない、あくまでモバイル限定のサービス”という点です。NFLといえば、日曜の夕方から集まり、大きなテレビで家族や友人とともに観戦会をするというのがよく知られる楽しみ方となっていますが、このサービスはそういった視聴層ではなく、あくまで携帯端末で視聴するという人達を対象としており、テレビ局などをはじめとする既存のステークホルダーとのカニバリズムを防ぎつつ、ユーザーを確保することが可能なサービスになっています。

個人的にこのサービスの展開については2つのポイントに注目しています。

アメリカの主要スポーツリーグが運営する初のサブスクリプションサービス

1つ目は、ライブコンテンツをメインにしているコンテンツ(ライツ)ホルダーが運営するサブスクリプションサービスであり、かつアメリカの主要スポーツリーグが直接運営する初めてのサービスとなる点です。

NetflixやAmazon Prime Videoなど、インターネット経由で映画やドラマ等を視聴できるプラットフォームビジネスの成功を皮切りに、スポーツの分野でもDAZNやESPN+などの動画配信サービスがこれまでに登場してきました。

そんな中、Disneyは2019年からコンテンツホルダーという立場を活用し、Disney作品に特化した動画配信サービス”Disney+”の展開を開始しました。このDisney+は2022年の第3四半期の発表でNetflixの有料会員数を上回るなど成功しており、最近ではコンテンツホルダー自身が運営するサブスクリプションサービスが注目がされています。

ただ、Disney+で提供されているコンテンツはライブではなく”好きなときに好きなだけ観ることができる”というコンテンツの配信が主であるのに対し、このNFL+はライブ価値が高い"試合映像"をメインコンテンツにしたサービスになっており、既存の動画配信サービスと一線を画しています。

この取り組みはアメリカの主要スポーツリーグとしては初めての試みであり、「コンテンツホルダー自ら提供するプラットフォームで、かつライブ映像を特徴としている」という点で、非常にユニークなサービスと言えるのです。

加えてこのサービスは年額単位で支払ってもそこまでの高額とはならず、既存のサービスとの契約を維持した上で加入できるような価格帯のため、ユーザーにとって痒いところに手の届くサービスという位置づけです。

コード・カッティングが進む中で、長らくテレビ局とインターネット配信はお互いに顧客を取り合うライバル関係という印象がありましたが、実はそこまで顧客を取り合うことは無いというデータも出てきており、このサービスの普及次第では実は共存できる関係性だったということが証明できる可能性もあるため、注目すべき新サービスだと感じています。

新たな放映権契約の交渉材料に

そして2つ目は、NFL側にとって放映権交渉の手札が一つ増えたという点だと考えます。 先述のように、NFLの人気は凄まじく、昨年アメリカで最も視聴されたテレビ番組のうち、なんと6つがNFLの試合だったという驚愕のデータも出ています。NFLのコミッショナーを務めるロジャー・グッデルは、今回の発表で「メディア業界で最も価値のあるコンテンツがNFLだ」と述べており、それも納得です。 とてつもないコンテンツ価値を持っているNFLの放映権ですが、現在DirecTVが行っているサンデーチケット・パッケージ(日曜午後に放送される試合が視聴可能なプラン)の放映権は、今シーズン終了後に契約が終了する予定となっており、この超スーパー人気コンテンツの入札において、一体どこが勝つのかと注目されています。

常々サブスクリプションサービスの充実を図っているアマゾンや、MLBの放映権に加えて、MLSの独占放映権を獲得したアップル、さらにはYouTubeを保有するGoogleも入札競争に参加すると報じられるなど、巨大な資金力を持つ企業が関心を示しています。年間で数十億ドル規模の契約になることが予測されているこの交渉ですが、ニューヨーク・タイムズ(NYT)はアップルが有力候補で年間25億ドル以上の契約になる可能性があると報じられるなど、大きな注目を浴びています。

この放映権の落札候補として、名前の挙がる企業はどこもインターネット経由で動画を視聴するプラットフォームを運営する企業ばかりで、かつそれらの企業は携帯端末で視聴するという点でとても親和性のある企業ばかりです。プラットフォーム側は常に"ここでしか見れない、このサービスでないと見れない" プレミアコンテンツを求めていますので、このNFL+が持つ“携帯端末で視聴できる”という点は、入札候補の企業にとっても大きな価値を持つことになり、NFL側が交渉を有利に進める上で大きなカードになるのは間違いありません。

NFLコミッショナーのロジャー・グッデルはWall Street Journalのインタビューで、「我々が見ているのは将来のプラットフォームであり、我々が持つコンテンツとともに、そこにいなければならない」と発言していますが、この新しいサービスが今後もリーグ独自の新たなプラットフォームとして運営されて続けていくという保証はないように感じます。もしかしたら、入札レースに勝利した企業のプラットフォームにそのまま組み込まれるなんてこともあるかも知れません。様々な展開が予想できますが、いずれにしても大きな影響を持つトピックであることは間違いないため、引き続きこの「NFL+」の動向を注視していきたいです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
NFLはレギュラーシーズンの試合数が少ないため、毎試合負けられない戦いが繰り広げられ、毎週末がお祭りのように盛り上がります。2月には全米最大のスポーツイベント”スーパーボウル”もあり、その人気を支えるサービスやテクノロジーなど、今回取り上げたこと以外にもNFLを取り巻くビジネスには興味深い事例がたくさんあります。

次回は後編として、今シーズンから本格的に導入される「NFTとチケットのコラボレーション」というサービスについて、注目したい点とともに事例をご紹介させていただきたいと思います。


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