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心の扉

集団で動くと必ずそこから逸れる人がいて
彼らがそうあることを正すべきか、今は受け入れて寄り添ってあげるべきか毎回その天秤に悩んでしまう。

みんなで同じ本を開いて読んでいる時に
座りたい場所に座れなくて立ち尽くす一人の女の子。
彼女は、全く僕に心を開いてくれていなくて
喋り掛けても基本スルーだし頷くか首を振るかくらい。

他の子にそこ譲ってくれんかなぁと声もかけるが断られ、
別の近くの場所を打診しても嫌と言われ、
『座りたいけどあそこは座れないんよぉ。』と横でつぶやいてあげるくらいしかできない。
つぶやいても別に返事は何も来ない。

とりあえず椅子を持ってきて『座る?』と聞くも首は横に動くし、
僕が本を開いて色々聞いてみても当たり前に何も返事は来ないし、
もう一つ本を置くための椅子を持ってきて
ここで見てもいいよーと声をかけるも首を横に振られ、
とりあえず横で『〇〇の隣がいいよねぇ。嫌だよねぇ』ってブツブツ言いながらみんなと同じページを開いてみるくらいしか出来ない。
見てはくれている。少しずつ声も届いてる気もする。

『暑い!』と他の子に言われ、換気のために中庭に続く入り口のガラス戸を開けに立ち上がって戸を開けに行くと彼女がトコトコとついてきた。

ちょっと心の中でニヤッとした。
部屋が暑くてこもった空気で余計モヤモヤするのもあるかな、スッキリするかなと思い
『外出てみる?』と聞いてみたら初めて彼女が頷いた。

勢いで聞いた突拍子もないことだったけど
我々二人の初めての意思疎通を蔑ろにできるわけもなく
二人で本を持って戸から一歩外に出ただけの場所で
座り込んで全体の流れとも関係ないページを
二人で読み進めていった。
少しずつ顔を柔らかくなり、目も合うようになり全体の進行をフル無視して付録の鯉のぼりシールを貼り、ページを捲る。

それを終えると一番後ろのページについている、
本の仕掛けで使う鏡代わりの銀の厚紙を彼女が丁寧に外す。
すると、外した銀の厚紙を僕の顔の目の前にバッ!と出してきた。
突然の行動にも驚いたし、至近距離で銀紙に歪んで映る自分の顔にも驚いて、びっくりした顔をしていると
初めて彼女が思いっきり笑ってこちらを見た。

頬が緩むとはこういうことを言うんだな。

比較的子供達と打ち解けるのは早い方だし、
壁なんて最初からないように周りからは見えるかもしれない。
それでも、僕自身には感じる、あの心の扉が開いて光がブワッと広がっていく感覚。
顔の全ての筋肉が緩んでニヤけてしまう。

この瞬間から言葉を交わせるようになったし、
たくさん笑ってくれるようになったし、
手を広げるとトコトコと寄ってくるようになった。

これが正しかったのかはわからない。
でも、頑なに閉じてた心を開くきっかけになったんだ。
自分のそのままを受け入れてもらえるって
大切にされてもらえてるって感じられて嬉しい。
何がそう思わせるのかは人によっても違うし、
そのために失う何かもあったかもしれないから、
正しいか間違いかはわからない。

でも、僕にむけてくれたあの笑顔を思えば
間違いだったなんて思えないじゃないか。

手を広げたらやってきてくれるようになった。
名前を呼んだらニコッとこちらを向いてくれるようになった。
関係値というものが少しずつ積まれていく第一歩。

名前を覚えて意思疎通を図れていても心が通っているわけではない。大好きと言ってくれていても感じる壁はあるし、仲が良いように思えていても見せてくれない一面がある。

こうやって新たな関係性が出来ると、大なり小なりそれぞれと心が通うきっかけとなるイベントが起こる。

たった一つの声かけかもしれないし、
横に寄り添ってあげることかもしれないし、
あえて何もしないであげることかもしれないし、
キャッチボールをすることかもしれない。

そんなイベントをきっかけにグッと距離が近づくあの感覚。笑うようになったり、泣きぐずるようになったり、意地悪な部分を見せるようになったり、いわゆる『信頼』というものを得始めた瞬間。

それぞれと少し近づけたと感じられるあの瞬間が僕はとっても好きなんだ。

月曜日会うのが楽しみだな。
また振り出しに戻ってるかもしれないけどね。笑

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