株主とCFOから半年後に会社が潰れると言われてから10ヶ月後、会社は過去最高収益と利益を記録した。アソビで7億円調達した不格好経営
世界は突然崩壊した
「このままではあと半年で会社が潰れます。」
2023年6月某日、無機質にCFOが言い放ち、取締役会は静まり返った。驚きと落胆の重い空気の中、今後の対策を考えようにも誰も意見しない。コストを圧縮しようにもどう考えてもあと6ヶ月しか資金がもたない。
「アソビでこの世から孤独を無くす」をミッションに掲げて、株主にも恵まれ7億を調達し、希望に胸を躍らせていたものの終わりは突然やってきた。
元々はアソビのメディア「PLAYLIFE」とアソビのコミュニティ「遊部」を運営していたが、コロナで売上が98%下がり、今のバヅクリに事業転換した。バヅクリは好調で、オンラインイベント/レクレーションを中心に1年半で400社と導入が広がった。しかしそれも束の間、コロナの終焉とともに、オンラインニーズが無くなり、2023年5月から急激に売上が下がったのだ。
その後、株主にも同じように伝えられ、経営再建が始まった。取締役メンバーは皆、意気消沈であったが、僕だけが現実を受け入れることができず心の中でガラガラと自分の城が崩れる音がした。社員38名、業務委託70名、毎月の赤字は2000万円以上、もはや自分ひとりの力でなんとかできる規模ではなくなっていた。
ただ、それでも理由のない自信に満ち溢れていた。むしろこの危機を乗り越えたら、自分も会社ももっと成長できる。ピンチになればなるほど燃えるのが僕だ。その場で取締役と監査役の退任を依頼し、残った2人の役員と絶対この危機を乗り切ろうと涙を堪えて誓った。
余談だが、この取締役会の後、車に轢かれた。幸い大事には至らなかったが、不幸は続くものだとつくづく思った。この不幸を乗り越えた先にある幸はどんなものだろうと、さらにやる気に磨きがかかった。
戦略:51:49の選択と集中
経営再生のためには売上を最大化してコストを最小化するとともにお金で時間を稼ぐために資金繰りの改善も行う。
まずは売上を最大化するために、サービスの取捨選択を行った。当時は7つのサービスを展開していた。
1.社内イベント
2.労組レクレーション
3.内定者フォロー
4.研修
5.エンゲージメントコンサル
6.ウェルビーイング
7.ビルコミュニティ
その中で、アポ獲得単価、受注率、単価、継続率、アップセル率をもとに、3.内定者フォロー、4.研修、5エンゲージメントコンサルの3つに絞った。
そうすることで失われる売上もあったのだが、集中することで今まで得られなかった売上のほうが多くなった。また、一部の営業メンバーからは「アソビを売りたい」、「楽しいコトを提供したい」声も多かったが、市場が大きいところでアソビを提供して顧客の経営課題を解決するほうが、バヅクリの付加価値最大化と社会的意義になると説得して振り切った。
また、当たり前ではあるが、サービスを絞ることで教育コスト/オペレーションが効率化し、提案の量と質の両方が飛躍的に向上した。
それ以外にもたくさんの選択と集中と行った。
・新規事業/提携など過去実績で売上を生まなかったことは一切やらない
・既存事業の磨きこみと横展開だけに集中する
・"あれもこれも病"からの脱却(迷ったらやらない)
・売上に関係ないKPIと業務はすべて無くす
・誇りとプライドを捨てて生き残ることだけに集中
たくさんのことを捨てた。
40歳を超えてこんなにも捨てるのかというくらい自分の体に激痛が伴ったが、捨てることにより成果が出てくると痛みは引いていった。
そこで思ったことは、捨てることと失うことは違うということだ。
捨てることで勇気が湧き、残ったものに魂が宿る。
捨てることでこんなにも未来が広がる。
そんなことを実感した。
財務:殴られる覚悟でコストカット
お金が無くなればゲームオーバー。
PLよりもCS重視の経営管理にシフトした。
実際には以下のコストカットと資金繰りの改善を行った。
・売上に直接紐づかないすべての投資(販促/外注費)
・オフィスの地代家賃
・役員報酬(僕は経営改善するまで50%カット)
・多少効率が落ちても良いシステム利用料
・上場準備投資(取締役会/監査役会解散)
・給与の支払いサイト変更
・採用と昇給の中止
従業員、業務委託先、パートナー先に1人1人に事情を説明して納得してもらいドラスティックにコストを下げていった。それを短期間(1週間以内)でスピーディーに進めた。
あえて2度言うが、(自分への自戒も込めて)
「売上につながらない費用はすべて切り捨てる」
なによりも一番辛かったのはこれから入社してくる方への交渉だった。
受け入れる体制が困難になった旨を話し、自分の経営者としての至らなさを謝罪し、理解してもらい入社を取りやめてもらった。あとにも先にもこれが最も精神的に応えたが、いつか危機を乗り越えて、もう一度受け入れる体制ができてから彼らと向き合いたいと心に誓った。
面談するときは罵倒され殴られることを覚悟で臨んだ。それでも僕らは生き残って、成長して、恩返しして、社会を変えたい。その想いだけで冷静に自分の会社にメスを入れて、既存事業の成長に最低限の費用だけを残した。
業務:脱分業/1人3役以上で効率化
当時は役員合わせて38名のメンバーで、営業、マーケ、企画、運営、開発、コーポレートで組織が分かれていた。そして、ザ・モデル型営業組織でインサイドセールス、ナーチャリングセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、セールスサポートに分かれていた。
分業による効率化と人材の専門化を狙ったのだが、これがコスト増と営業力の停滞のダブルパンチの原因となった。
単なるイベントではなく、人材育成や組織開発の場合には、顧客特有の事情や複雑な課題が数多く存在する。それを伝言ゲームのようにただ静的な情報として伝えるだけでは、ちゃんと理解して適切な提案をすることが難しい。
そこで、ザ・モデル型組織から一気通貫型組織に変更して、アポ・商談・ナーチャリング・クロージング・アップセル/継続を1人の営業がすべて担当するやり方にした。一部インサイドセールのみ専業のメンバーはいるものの、
これにより営業メンバーの当事者意識が芽生え、自分の顧客を最初から最後まで成功に導く責任感が生まれた。しかし、営業効率はある程度落ちることは覚悟していたが、逆にコミュニケーションコストが減り効率が格段に上がった。
商材によってはザ・モデル型が機能不全を起こすこともある。バヅクリのように顧客の人材育成/組織開発という複雑なテーマで課題解決型のコンサルティングを行うサービスでは、1人の営業が担当するべきだと確信した。
繰り返しにはなるが、経営再生では直接売上に紐づく人、組織、業務、システム、投資だけを残すことが重要となる。
組織:かっこ悪い姿で向き合う
社員に嘘はつかない。社員を安心させて士気を上げるために、
悪いニュースを伝えず良いニュースだけをとも考えたが、会社が危機的状況で落ちるところまで落ちたからこそストレートに会社の状況を伝えた。
ショックを受ける社員もいたが、意外にも冷静に受け入れてくれた。
社員に責任はない。責任は経営陣にある。だからこそ経営陣が責任を取りながらアクションと成果にコミットする。全社的に危機を脱するために何をやるかが明確になり逆に結束が高まった。
もちろんコアメンバーには事前に1on1をしながら、週次で全体の状況共有と1on1でフォローを強化した。
危機的な状況の中でも、何のために働いているか、何を実現していきたいか、バヅクリの何が好きかを1人1人向き合った
社長の仕事で大事なことは、社員の自己実現を支援すること。その想いをもった人たちが集まり会社となる。こんなあたりまえなことに今までなぜ気づけなかったのか。改めて、会社は人なりということを実感した。
人事:評価/報酬の最適化と成長支援
元々の評価・報酬制度はDeNAやアクセンチュアを参考に、個人目標に対する達成度をベースとしたものだった。
個人目標が昇進昇級に直結するわかりやすさはあったのだが、客観的基準に基づくものではないため、社員同士で比較したときの納得感は薄かった。
そこで、会社の成長に必要な人材を定義したスキルマップと業界平均を考慮した/職種/役職別で報酬を定義した。
役員も例外ではない。役員報酬は役員間とのバランスと本人がいくらなら頑張れるで、決めている会社が多いのではないだろうか。かくゆうバヅクリもそうだった。このタイミングで役員に求められるスキルと報酬を定義して、
役員も社員と同様に扱った。
これにより、成長を客観的な基準で現状把握することができ、成長するために何が必要かが明確になった。さらに、報酬の適正化ができ、経営管理が円滑になった。
危機的状況だからこそ、費用の大部分を占める人件費の最適化と成長の土台となる育成を同時に行うためにスキルマップは非常に重要だった。
再生する社長は孤独との闘い
社長は孤独との戦い。自分の手足を切り刻むような思いをしながらコストカットを行い、1円でも多く売上を上げるために、自ら営業現場で資料作成・提案・クロージング・教育を行い、刻々と迫るお金が無くなる恐怖と向き合わなければならない。役員報酬が半分になり、僕よりも給料の高い社員がいる中で、だれよりも前に出て死に物狂いで働いた。
役員と社員と一部株主と共に闘ってはいるが、倒産した時に責任は負わない。あたりまえだ。僕が創業社長で大株主なのだから。社長はハイリスクハイリターン。幻想はない。会社が潰れたらすべて社長の責任。子供でもわかることだ。資本の原理とはそういうもの。
僕は戦略、財務、業務、組織、人事のアクションに加えて、
・1週間で50アポ
・費用に関する契約書交渉
・隔週全社員面談
・社員教育指導
・僕個人で最低月1000万円の売上
・最低週3回苦手だった会食に行く
・月20アポ新規獲得&商談
・毎日資金管理
ライフワークにしている音楽活動以外は会社として生き残ることだけを考えていた。
もちろん体調を壊さないわけがない。神経異常、記憶障害、無気力、感情喪失など医者からは絶対安静と言われながらも、薬と運動と人に会うことで騙しだましやってきた。僕にとってバヅクリと音楽がすべて。他に何もいらない。それが失われたとき死を意味する。だからこそ命を削りながら真剣にやった。プライベートのときは周囲に悟られないように隠していた。目を合わせるとボロが出そうだからなるべく目を合わせないようにしていた。
仕事の病は仕事でしか治らない。
世界は破壊と再生を繰り返す
その結果、7ヶ月でキャッシュフローで黒字化を達成し、10ヶ月後に過去最大売上と過去最大収益を上げた。さらに持続的にPL/CS共に黒字になる仕組みを構築できた。倒産どころか通期で黒字も見込まれてきた。
企業の成長はたくさんの犠牲のもとに成り立っている。成長することは捨てることの連続でもある。そんなことを実感した10ヶ月でもあった。
しかし、ここで楽観視はしていられない。いつまた破壊するかもわからない。一寸先は闇。常に慎重に、時に大胆に、選択と集中、破壊と再生を繰り返していかなければならない。
破壊は再生のはじまり
再生は破壊のはじまり
スタートアップはこの表裏一体と常に向き合わなければならない。僕と同じように孤独な闘いを挑んでいるすべての起業家にこの文章が勇気を与えるものになれたら嬉しい。
そして、この10ヶ月間共に闘った役員、社員、パートナー、株主、お客様に
心からの感謝を込めて、バヅクリが目指す「この世から孤独を無くす」を
1日も早く実現して恩返しをしていきたい。
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