見出し画像

カケルプレイノット|イワケン氏インタビュー 後編

XR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けする「カケルプレイノット」

今回は、株式会社サイバーエージェントでXRの事業開発をしながら、個人でイワケンラボを主宰されているイワケン氏に、株式会社playknot代表の山口恭兵がインタビューを行いました。

株式会社サイバーエージェント AI事業本部 XR研究所 所長 イワケン / 岩﨑謙汰
XR界の吉田松陰としてコミュニティからXRの歴史を生み出す活動を行う。XR好き学生支援コミュニティIwaken Lab.主催。Microsoft MVP for Mixed Reality 2021~。4年連続XR Kaigi登壇。

ー この記事は約13分で読めます ー


イワケン氏が見るVision Proの凄さ

山口:Vision Proが今までのデバイスと違うのは、ぶっちゃけ、ブランド力のあるAppleのXRデバイスであるところも大きいと思うんです。
イワケンさんはエンジニアであり、個人の活動としてはクリエイティブベースや体験ベースで面白いものを作ろうとされているじゃないですか。
そんなイワケンさんから見ると、Vision Proって今までのデバイスと体験ベースで違いますか?技術ベースですか?

イワケン:体験ベースも違いますね、やっぱり「ナチュラル」というところは体験ベースですごく感動するポイントかなと思っていて。

山口:VRゴーグルのナチュラルというと、UIの表示方法なのか、コントローラーがなくて操作感がナチュラルなのか

イワケン:操作感ですね。あと、多分技術的には解像度が高いとか、レスポンスが良いとか、UIが凝ってるのはもちろんあります。

100人ぐらいに体験してもらって、過去のデバイスと比べて2つ違うなと思ったことがあって、
一つはやっぱりナチュラルさですね。僕があれこれと教えなくても、すぐにどう操作するのかわかる。さすがAppleだと思う点ですね。

山口:キャリブレーションもナチュラルにできますか?VRゴーグルのキャリブレーションって、始め人によっては混乱すると思うのですが、それは一緒ですか。

イワケン:いや、もうむしろ逆に「キャリブレーション楽しい」みたいな。もちろん2・3回目になると面倒になるかもしれないけど、初回の体験が、もうそこも含めてすごく楽しいので、XRに慣れてる人も慣れていない人もすっと入り込んでいく。そこはすごい。さすがAppleというところです。

もうひとつ違うなと思ったのは、体験した人の反応なんです。僕は新しい事業やムーブメントを起こしたいと思って、過去色んなデバイスを人間に体験させているんですが、Vision Proを体験した人の目の輝きが明らかに違うんです。体験後に「これで何かやりたい」という気持ちを起こさせるんです。

山口:感動ってことですね。

イワケン:そうですね。「イワケンなんかやろうぜ」っていうお声がけが圧倒的に多いんです。デバイスが普及するには、最初にそういう人たちが面白いことをするのが重要で、Appleは何かをそうさせる力を持っているんだなと感じます。

山口:何かって言語化できるものなんですか。ひとことでざっくりいうとUXが他のメーカーより優れてるってことですか。

イワケン:UXのストレスの少なさもありますが、それに大きく貢献しているのは、ディスプレイの解像度の高さや、遅延の少なさによる感動が大きいのかなと思います。

なぜそう思うかというと、色々な人に体験してもらって、思っている以上に感動するコンテンツがApple Immersive Videoという、簡単にいうとVR180の映像コンテンツだったんです。

山口:それって、MetaやPicoのデバイスも体験したことのない人が感動するということですか?

イワケン:​​はい、経験者も未経験者も感動しています。VR180のコンテンツ体験をデバイス目線で要素分解すると、基本的には解像度と、音質がデバイス毎の違いを生むじゃないですか。
そうすると、Vision Proの4K×4Kのディスプレイ解像度と空間オーディオがインパクトがあるとわかります。僕らからすると昔からあるコンテンツ形式だけども、やはり解像度と音がしっかりしていると人々が感動する。
もちろん、ハンドトラッキングやアイトラッキングのUXも、そのナチュラルさに感動を引き起こしますが。

山口:なるほど。他に何か体験したみんなが感動したコンテンツってありますか。

イワケン:「Environment」という基本機能があります。デジタルクラウンをひねると現実から徐々に雪景色などに変わるんですが、これが意外と感動するんです。また、単純に装着して歩いてみて「全然歩ける」という体験も、一般の方には大きな驚きのようです。

山口:なるほど。それってどの顔で体験会をされているんですか。研究所所長として体験会をしているのか、個人なのか。

イワケン:どちらもですね。社内ではXR研究所所長として、XRを広めて事業化したいという前提で体験会を行っています。

山口:なるほど。イワケンさん、白衣着た方がいいんじゃない?所長感もっと出したほうがいい。 

イワケン:たしかに(笑)

山口:白衣着たほうがいい。でんじろう先生みたいな。

東京ドーム主催ハッカソンが変わり目?

山口:イワケンさんは、8年ぐらいXRをやってるわけじゃないですか。
イワケンさんの所感として、XRがこう変わってきたな、といったことはありますか。

盛り上がったり盛り下がったりを繰り返してると思うんですけど、8年前と今で、ぶっちゃけそんなに一般の人には普及していないし、いつ普及するかまだ誰にもわからない状況じゃないですか。

イワケン:そうですね。XR業界は確かに波があります。デバイスで見ると、最近はQuest3、Xreal、Apple Vision Proという主要プレーヤーが出てきました。XRealはデザイン性の高いデバイス、Quest3は比較的安価でパススルー機能が優れている点で注目されています。そしてApple Vision Proで、一般の人が体験してわくわくするデバイスがやっと出たなと。ただ、普及にはまだ時間がかかりそうです。

山口:金額も高いですしね。

イワケン:あと5〜10年ぐらい、普及に対していろいろ工夫が必要ですね。
ただ、興味深い動きもあります。ハッカソンの動きとして、東京ドーム主催のハッカソン「enXross(エンクロス)」が今(インタビュー当時)やってるんですけど、一般の企業が本気でXRをやり始める変わり目になるかもと思っています。

山口:たしかに東京ドームって、一般の人向けに体験とかエンターテイメントを何かしらで提供してる仕事ですよね。それがイベントだったり、空間の演出だったりいろいろあると思うんですけど。

イワケン:東京ドームさんという、一般の人に幅広く知られていて、テクノロジーで尖っているタイプでない企業が、大きな予算をかけてハッカソンを開催しているところがすごい。

私が5年間主催してきた「withARハッカソン」は、どちらかというと技術好きな人を中心に異業種の方を巻き込んで少しずつ大きくしていったコミュニティでした。今回の東京ドームの取り組みは、XR業界の大きな転換点になる可能性があります。

山口:たしかに東京ドームだと、全然そんな興味ない野球好きのおっちゃんとかが体験して何かが起きる可能性もありますもんね。

イワケン:そうなんです。XR業界の人だけでなく、別業界の人と一緒にXRのユースケースを作っていくのが大事だと考えています。東京ドームさんのハッカソンをキッカケにそういった取り組みが増えていくことを期待しています。

山口:一般のほとんどの人はXRに興味ないけれども、その人たちが感じる面白い・面白くないとか、良い・悪いっていう意見の方が、マスに刺さるコンテンツを作るっていう意味では必要ですよね。

イワケン:そうですね。その意味でもApple Vision Proは、何か人の気持ちを駆らせるものがあるので楽しみですね。。「一緒に何かやりたい」という声が多いんです。その中で僕は、イワケンラボやサイバーエージェントといった複数の場で活動できるのは強みだと感じています。

山口:playknotとも一緒にやりましょう。

イワケン:そうですね。自分としては、一緒に活動するパートナーが多いと楽しいです。

PR:「インパクト出口」を常に探している

山口:なにかnoteをご覧の方に向けてPRされたいことなどありますか?

イワケン:はい、ビジョンベースの話になりますが、今のXR業界は、ビジネスの芽を出すのに試行錯誤が必要なフェーズだと考えています。その意味でコミュニティの存在が重要で、それを応援する流れがある方が日本にとっていいのかなと。

例えば、東京ドームハッカソンの、小規模版が増えると面白いと思っていま
す。

山口:広くて大規模で大変ですもんね。

イワケン:特に学生の遊び場みたいなのを作りたいんですよね。これから経験を積む学生にとって、何かを発注されるのは重荷になりがち。むしろ「1日2日、このテーマで好きなものを作っていいよ」みたいなアプローチを増やしていくのが良いと思います。そうすることで「XRはこんなことができるんだ」という気付きが人類に増えると良い。

一方で、ハッカソンは企業と参加者を繋ぐ良い機会ですが、頻繁に開催するのは大変です。そこで、イワケンラボでは、より気軽に1日のイベントを開催することなどを試しています。

山口:なんか、コミュニティって場所があった方がより熟成するし、密度濃くなったり人が増えたりするじゃないですか。

イワケン:そうですね。場所はひとつ大切ですね。

山口:コミュニティの場所が必要ってことですよね。場所に、もちろんデバイスだったり、高価で学生が本来使えない物があれば望ましい。

イワケン:たしかに。だから場所や機材の提供をお願いできたら嬉しいですね。この場所で1日イベントしていいよー、とか。

去年でいうと、NianticさんやJAXAさんなど、テクノロジー企業とイワケンラボの学生とのコラボレーションができました。

山口:イワケンさんもイワケンラボも、XRのソフトとハードのメガプラットフォームのエバンジェリスト的な集団になっていますよね。

イワケン:ありがたいことにそうですね。でも次のステップとして、日本のローカルな、普段XRに関わっていない分野で、インパクトのある展示やイベントをしたいんです。コミュニティプロデューサーとして、社会につなげることで、技術や学生のインパクトをつくっていきたい。

あと僕が全然できていないのはグローバルですね。最近茶道に取り組んでいる理由もそうで、日本の強みを活かす方法を探るためです。イワケンラボで学生と一緒にこういったチャレンジもしていきたいですね。

山口:XRと何かかけ算の要素を持たせると考えた時に、日本を海外に広めたり、日本の文化を発信しようということですね。

イワケン:そうですね。私が常に探しているのは「インパクト出口」なんです。同じ技術でも見せる場所によってインパクトが全然違う。例えば、学生が学校の展示会で出していたものを、テレビ局で発表すれば全く違うインパクトになる。

山口:そうですね。

イワケン:こういったことには大人のサポートが必要だと思うんですよね。場を作って、学生がわいわい作ったものがインパクトになる。それがハッカソンだったり、インターンだったり。もちろん、レベルの高い学生クリエイターが前提ですが。

僕は今この「インパクト出口」を、大人として学生に向けてどう作っていくかをよく考えています。

今年は北海道での学会展示や、キーパーソンが集まる場所での作品発表、Apple Vision Pro所有者限定のバーベキューイベントなど、様々な「インパクト出口」を試しています。

山口:Apple Vision Proを持ってる人だけのバーベキューは面白いですね。しかもそれは個人で持ってる人ってことですよね。

イワケン:そうですね。学生とVision Proホルダーをゲストに招いて、みんなでバーベキューしながら、Apple Vision Pro空間ビデオコンテストを開催しました。とてもピースフルな雰囲気でわいわいできました。

他にもいろいろやってみたいことがあるんですよ。グループ展とかもやってみたい。会場を貸し切ってメンバーと一緒に展示する。表参道のギャラリーでの展示など、エンジニアにはあまりないカルチャーに挑戦したいですね。こういう経験が人生を変えたりすると思っています。

山口:やります?白金で。

イワケン:白金いいですね。(笑) 

コミュニティの可能性

イワケン:山口さんの方が詳しいかもしれないですけど、日本にはいろんなコミュニティがあるじゃないですか。面白いのは、開催する場所によって集まる人が変わるなって勝手に思っていて。

山口:僕、昔バーをやってたからコミュニティについて持論があって。まずリアルな場所があった方が、コミュニケーションの密度が濃くなるから熟成されると思うんです。それで、シェアハウスでもバーでもいいんですけど、例えばじゃあ、僕がバーのオーナーですと。実際バーテンダーにはイワケンさんが立っていて、ただ僕はオーナー。

そういう場合、僕じゃなくて、その場所に一番長く居る人の空気感が出るなと思うんです。イワケンさんがいたらイワケンさんの空気感になるし、僕がいたら

僕の空気感に近い人たちが来るバーになる。その場に一番長くいる人が、そのコミュニティのカラーを決める。

だからイワケンラボの場合イワケンさんのカラーになると思うんですよ。リアルの場所がなくても。

イワケン:たしかに、勉強になります。そういう意味で実は、シェアハウス的なことも将来的にやりたいんです。寮を作るみたいな。

山口:若者の。

イワケン:そうですね。学生にとって特に寮は結構インパクトがあるし、やっぱそこで起きる偶発的な何かが、将来の高杉晋作なのか、キーパーソンを生むと思うんですよね。

山口:また僕の話になりますが、25歳で起業して今35歳で10年前、脱サラして起業した同い年の6人で、一戸建てに住んでたんですよ。武蔵小山で、全員脱サラして起業したやつで。それぞれみんな別でやってたんですけど。

イワケン:やっぱ価値観変わりますよね。

山口:し、切磋琢磨というか。趣味嗜好は人によって違うけど、コミュニケーションの密度が濃いですからね。ケツを叩かれる。「あいつ頑張ってる」みたいな。

イワケン:とか、普段喋らない、自分の仕事場以外では話さないアイディアが結構ランダムチックに行き交ったり。そういうのが結構いいアイディアになったりとかしますよね。

オンラインコミュニティでも今自分の中ではチャレンジしているのですが、やっぱり一緒に住むことで、もっと濃い、もっと訳のわからないものが生まれるんじゃないかって思うんです。それもあり、毎年二泊三日の開発合宿を企画しています。

山口:ちょっともう、いよいよイワケンさんが最終的にどうなってるかわからないですね。

イワケン:他人から見ると、そう見えるかもしれないです。ひたすら、やった方がいいを思ったことを全部やってるんです。

山口:ビジョンですよね。別に仕事とかお金で、とかじゃなくて、基本的にはビジョンですよね。

イワケン:そうですね。仕事やお金を越えて、ビジョンドリブンで動いちゃってますね。

「XR界の吉田松陰」の人生観

山口:イワケンさんのキャリア観とかって伺ってもいいですか?

イワケン:はい、もちろんです。私のキャリア観の特徴として、フリーランスや起業という選択肢がある中で、敢えて会社員であることを軸に考えています。これは、昔野球部で男子マネージャーをしていたことからも分かるように、組織に貢献することが好きだからです。

また、日本人の多くが会社員を選ぶ中で、新しい会社員の生き方を示したいという思いが根底にあります。会社員でありながら、いかに人生を楽しみ、社会に貢献していくか。それを体現したいんです。

山口:なるほど。

イワケン:私の考えでは、会社員という立場を基盤としつつ、個人のビジョンに向けて会社の枠を超えたバイネームでの活動を重視しています。今まで話してきたコミュニティ活動がそれにあたります。それにより、自己実現の確率があがりますし、会社では生み出しにくい形の社会的インパクトを生み出す可能性があります。何より人生楽しいです。

コミュニティ活動を短期的な見返りを求めず活動できているのは、会社員として収入が安定しているからというのも大きいですね。とはいえ、面白い話をいただいたり、稀に副業として収入が上振れすることへの期待感もあります。

一方で、会社員だからこそ生み出せるインパクトもあります。私が過去に実現したカムロ坂スタジオでのHoloLensプレゼンのデモは個人の活動では実現できませんでした。

結局のところ、このようにバイネームで活動しつつ、会社とコミュニティという複数の拠点で生きていくのが、私のキャリア観の核心なんです。

山口:でもイワケンさんは個人の収入を副業で追い求めてる感じもない。どっちかっていうと収入はあった方が望ましいけど、割とビジョナリーにイワケンラボをやっていますよね。

イワケン:そうですね。収入ファーストな考え方ではないです。これは私の人生観にも関わるのですが、人生はいつ終わるか分かりません。仮に今年1億収入が増えたとしても、来年死んだらあまり意味がないじゃないですか。

むしろ私が大事にしているのは、自分の信念を貫き通すことです。そして、自分が亡くなった後に、後世の人々が「イワケンさんはこういう風に頑張っていた。私も頑張ろう」と思ってくれることです。こういう気持ちで生きているから「XR界の吉田松陰」を目指すと決めました。

吉田松陰は29歳で亡くなりましたが、彼の弟子たちが奮起して明治維新を成し遂げました。私も同じように、次世代のXR人材を育て、彼らが大きな変革を起こすきっかけになりたいんです。

だからこそ、XRという収益性が不確実な領域でも、生き残る工夫をしつつ、自分が信じるものは全てやり尽くしたいんです。それが私のキャリアと人生の指針となっています。

おわり

今回は、株式会社サイバーエージェントでXRの事業開発をしながら、個人でイワケンラボを主宰されているイワケン氏に、株式会社playknot代表の山口恭兵がインタビューを行いました。

「カケルプレイノット」では、様々なXR/メタバースの業界人へのインタビューを通して、業界のリアルな声と熱量をお届けしています。

ぜひ他の記事もご覧いただけますと幸いです。