愛着
気付いたら、昔の物ばかり魅力的だった。
誰かに影響された訳でもなく、気づいたら。
バンドをやめて、アンプを売った。
そのお金で、新しい相棒ができた。
名前はMUSIC MANの112RP。
俺が生まれるなんかよりずっと前からこの世に居た。もうボロボロのおじいさんになってリサイクルショップに居た。あまりの運命的な出会いに、俺は連れて帰ることにした。
数ヶ月使ったけど、ちょっとだけノイズが発生するので、メンテナンスに出した。
真空管のアンプは修理にかなりのお金がかかる事が多い。だから軽い気持ちじゃ送り出せなかった。整備士からも「状態としては良くない。本当にこのアンプを使いたいという特別な思いがないのなら、直さない方がいいよ。」と言われた。
正直、少し考えたし迷った。
だけどなんとなく、答えは出てた。
前に友達から言われて救われた言葉がある。「迷っている時、心の中では答えが出ているはず」
本当にそんな感じだった。
だから、修理をお願いした。
その瞬間から、今まで以上の愛着が湧いた。温泉が湧き出るような。温泉みたく愛が溢れるような。
そういえば、昔から大切に使うのが好きだった気がする。特にお気に入りの革靴。汚れや傷に自ら手を差し伸べてみる。新品みたいにはならないけど愛おしい。使われてきた跡はカッコいい。そこに手を施した跡があるともっとカッコいい。カッコいいと言うか、愛。可愛く見えてくる。施された靴もなんだか嬉しそうに跳ねてる気がする。
この前はタイプライターを買ってみた。あまり動きが良くないので自分で直してみた。インクリボンも替えて、使えるようになった。嬉しかった。しかし楽しいのも束の間、赤いボタン押したらアナログとは思えない「シュウィーン!!!」という凄い音が鳴って、もっと壊れた。だけど幸せな時間だった。
鳴らないトランジスタラジオも持ってる。一向に直らない。可愛い。
物や植物は喋ってくれないけどこんな感じで。
愛と情のギブアンドテイクで私は今日も生かされて。
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