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第26回 「ディトレーニング」

今回は緊急事態宣言が解除され、段階的ではありますがスポーツ活動も再開されるので「再始動」についてお話ししたいと思います。

自粛期間が数ヶ月に及びいよいよ始められるという気持ちでいるアスリートが多いと思いますが、この再始動を慎重に行わないと怪我のリスクを高めてしまいます。
そこで、再始動・復帰の際の注意点などをお話しします。

●ディトレーニングとは

ディトレーニングとはトレーニングの減少やケガや社会的理由のよる休止などという意味だけでなく、それによってそれまでのトレーニングによって獲得した運動生理学及びパフォーマンスの適応の部分的または全体的な損失と定義されています。
身体の状態(筋力や持久力、スピードなど)を維持・向上するための十分なトレーニング刺激を身体にあたえていない状況です。
例として、大会やシーズン後の長期オフの期間、さらにはケガや病気によって身体を動かせない期間が長期にわたったときに起こる身体の変化がなどがそれにあたります。
今回の自粛期間というのもこれに当てはまると思います。

●身体に及ぼす影響

ディトレーニングによって影響を受ける身体要素として、筋力や筋のサイズといった筋の機能から始まり、心肺機能や局所的な持久力などがあり、またスポーツのパフォーマンスにも大きな影響を与えます。
特にコンタクトスポーツにおいては、コンタクトプレーができない期間が長期に渡ると、身体のサイズが落ちる以外にコンタクト(衝撃)などへの抵抗力の低下も考えられます。
また、球技全般においても、感覚のズレなど様々な弊害を引き起こす可能性があります。

●身体的変化

・筋萎縮(筋量低下):特に速筋線維が萎縮すると報告されています。
・持久力(心肺機能):2週間の活動休止でVO2maxが28%低下するという報告があります。
・柔軟性低下    :筋や腱のの伸張性が低下起こると言われています。
・脳神経系の低下  :記憶力や感覚、運動イメージの低下の可能性があります。

●ケガのリスクについて

長期運動休止の影響で上記のような身体的変化が生じ、運動への耐性が低下していることが考えられ ます。それに加え、急激な運動負荷の増加に関して以下のように報告されています。
・前週と比べて 10%以上のトレーニング負荷量の増加は障害発生リスクを高める 
・過去4週間のトレーニング負荷量の平均と比べて1週間の負荷量が 1.5 倍以上の場合、障害発生率が大きく上昇する(図)
 以上のことから、長期運動休止後は運動負荷の急激な増加を避け、4 週間以上かけて元の運動負荷量まで漸増させていくことが、障害発生リスクを低下させるために重要です。

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●トレーニング再開について

アスリートのための安全なトレーニング再開についてのガイドラインを
NSCA(National strength & conditioning association)が発表しています。

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・トレーニングスケジュールとチーム練習について
・トレーニングの安全性(ディトレーニングに潜むリスク)
・環境整備(清掃・衛生面など)
まず、親御様や指導者ができることは、再開によってケガのリスクを下げるとともに感染のリスクを避けるということがとても大切なことになります。
特にジュニアアスリートにおいては、再開後の練習やトレーニングの過多、また自粛解除による気持ちの緩みが懸念されますので、リスクを避ける行動を徹底されるようにして下さい。

また、NSCAとCSCCa(Collegiate Strength & Conditioning Coaches association)も共同でガイドラインも発表しています。

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トレーニングを安全に復帰するためのガイドライン。
こちらは特に、学校の部活やクラブチームのコーチの方々は、復帰後の練習は慎重に行うことが必要となります。

3か月のディトレーニング後に段階を経ずに超高強度のトレーニングを行ったことで、横紋筋融解症を発症したケースが報告されています。
またトップアスリートにおいてもディトレーニングの弊害が報告されており、NFL(National Football League:全米フットボールリーグ)では2011年に選手によるロックアウトが起こっており、その前年までのアキレス腱断裂の発生件数が年間を通して平均5件ほどであったものが、ロックアウト明けのプレシーズンのキャンプだけで12件発生しました。
また低下した身体機能の再獲得にはある程度の時間を有します。シーズン後の2週間のディトレーニングによって低下した持久系のパフォーマンスはディトレーニング前の数値に戻るまでに2~3週間の高強度のトレーニングを有したとする報告があります。

上記のような報告があり、今回2〜3ヶ月の自粛期間があり、期間前の状態に戻すには同等の期間が必要ということになります。

●自宅でのケア

・メンタルケア
 
本格的な練習・トレーニングを再びスタートできることで、高いモチベーションや意気込みをもっていると思います。
そのような時、気持ちだけが先走り身体が思うようについていかないということが考えられ、モチベーションの低下ケガのリスクにまで繋がります。
最初は、焦らず無理をせず少しずつ行わせ、復帰までのプロセスをしっかりと説明し、メンタルのサポートをしてあげるようにして下さい。

・ボディケア
 練習再開後、身体には普段以上のストレス(身体的・精神的)がかかります。
ストレスがかかった状態では、質の良い練習ができなくなってしまいます。
またこれから梅雨時期に入り、さらに身体には疲れがたまりやすくなりますので
ご自宅でのストレッチ・入浴・マッサージなどケアをしっかりと行うようにして下さい。

・栄養面のケア
 トレーニングの実施にあたって栄養面では、当日の練習前に
「食事を済ませ、水分補給を行うこと」
「補食(必要に応じて)の準備」
「水分補給の準備」

ができているか確認してください。また、トレーニング実施後には、身体に疲れを残さないため、リカバリーできるよう食事内容を意識して下さい。
また、たんぱく質・糖質の摂取、ビタミン・ミネラルなどの摂取を心がけ、食からのリカバリーも大切になります。
これからの時期は「熱中症」のリスクも高まりますので「水分補給」はしっかりと行うようにして下さい。

広崎 哲也/Tetsuya Hirosaki
鍼師・灸師・あんま・マッサージ・指圧師
明治大学柔道部トレーナー(2002)
NTT -G Fukuokaラグビー部トレーナー(2003〜2013)
日野RedDolphinsラグビー部トレーナー(2014〜2016)
SuperFormula トレーナー(2013〜)
ボディケアマネジメント講師
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