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笹塚・幡ヶ谷・初台の個性を緑道でつなごう ーまちで仕掛ける人(ササハタハツ前編)ー

渋谷といえば、スクランブル交差点。そうイメージする人も多いけれど、それだけではない。原宿・表参道・代官山・恵比寿・広尾・代々木・千駄ヶ谷・上原・富ヶ谷・笹塚・幡ヶ谷・初台・本町、これぜんぶが渋谷区なんです。
代官山はオシャレで恵比寿はビール……イメージが先行しているエリアもあるけれど、実際のまちでは何が起きているのか? まちに深く関わり、まちの変化をつくろうとしているローカルヒーローに話を聞いて、まちの素顔に迫ります。

まずは、渋谷区の中でも住民人口の多いエリア、笹塚・幡ヶ谷・初台から。最近は、各地域の頭文字をとって『ササハタハツ』と呼ばれています。今回は、デザイナーの小田雄太さん、笹塚ボウルの財津宜史さん、幡ヶ谷でお店をオープンした『キッチンかねじょう』の上松晃大さんと『will o' wisp』の光安北斗さんに集まってもらい、代表理事・金山淳吾が話を聞きました。

左から、小田雄太さん・財津宜史さん・上松晃大さん・光安北斗さん・金
山淳 笹塚の情報発信地『笹塚ボウル』にて

TPT(ティーパーティ)から動き出した
ササハタハツ・アップデート

金山淳吾(以下金山): 笹塚でTPT(ティーパーティ※)が立ち上がったのは、最近の大きなニュースです。ササハタハツエリアを良くしていこうという発想が、TPTで具体化してきたのではと感じています。

小田雄太(以下小田):TPTの小田です。僕はデザインをしていて、笹塚ボウルの財津(宜史)さんと知り合ってから地域のことを話すようになりました。ササハタハツの大きな変化として、緑道の再整備(※)がある。再整備は決まっていることなので、では、そこに僕たち区民はどう入っていけるのかを考えていました。
エリアの文化をつくっていく・文化を育てていくことを目標に何ができるかを考えて、「まずは定期的にお茶会をしながら、いろんな人と話をしよう」と。めちゃくちゃユルく立ち上がったのがTPTです。2年くらい緑道でお茶会をしていて、だんだんいろんな人に来てもらえるようになって、それなりの手応えを感じています。

財津宜史(以下財津):TPTと笹塚ボウルの財津です。僕はササハタハツエリアでお店をやっているので、昔から商店をやっている人たちと繋がりがあります。このエリアが楽しいまちになればいいなという思いがあって、15年くらい前から近くのお店同士でいろんな企画をやっていました。そこに緑道の再整備が始まった。渋谷区と交渉するときに活動の元になる形があったほうが良いと思って『一般社団法人Tea Party』をつくって本格始動をはじめました。

※TPT(ティーパーティ)
2021年、笹塚・幡ヶ谷・初台の緑道の再整備計画『388FARM(ササハタハツファーム)』に、地域住民としてコミットするために立ち上げられたササハタハツの再開発プロジェクト。毎月第3火曜に緑道でお茶会を開催。これからの緑道に何が必要かを、エリアで暮らす・働いている人たちと一緒に考えている。https://t-p-t.org/

※⽟川上⽔旧⽔路緑道の再整備
⽟川上⽔を暗渠化した上部の遊歩道状都市公園整備から30年が経ち、施設の老朽化に伴って再整備が進んでいる。渋谷区はこの再整備を「緑豊かな都市景観の形成」「国際観光都市としての施設の充実」「地域のにぎわい創出」に繋がるプロジェクトとしている

笹塚ボウル 財津宜史さん

小田:財津さんは笹塚でボウリング場や飲食店などを経営していて、今日来てもらった『キッチンかねじょう』の上松晃大さん、『will o' wisp』の光安北斗さんは幡ヶ谷でお店をオープンしました。僕の肌感覚では、ササハタハツエリアで30〜40代の若い世代が新しくお店をはじめるシーンが増えてきた。特にこの5年は、幡ヶ谷エリアにカルチャー好きが集まってきた印象があって。実際に、お店を立ち上げた上松さん・光安さんから話を聞きたいなと思っていたんです。「なぜ、幡ヶ谷で飲食店をオープンしたのか?」

上松晃大(以下上松):大学時代から友だちが幡ヶ谷に住んでいて、15年くらい前から遊びにきていました。僕も7年前から幡ヶ谷に住んでいます。一度住むとわかるんですが、幡ヶ谷にはめちゃくちゃすごい店や老舗もたくさんあるんです。それで、僕の中には「飲むなら幡ヶ谷」という感覚がずっとある。幡ヶ谷はお酒カルチャーが根付いているし、飲むまちとしての魅力があると思う。それに、自分の店を出すなら自分が住んでいるまちでやるのが自然だと考えました。

光安北斗(以下光安):僕はずっと海外で生活をしていて、東京で暮らしはじめたのは5年前です。僕にとって幡ヶ谷は飲むまちだったのですが、下町感がいいなと思って選びました。

『will o' wisp』光安北斗さん

今や幡ヶ谷は、
恵比寿・代官山とは違った魅力で注目されはじめているまち!

金山:ササハタハツエリアの空気感を言語化すると、どうなりますか?

財津:このエリアは僕みたいな地元民もたくさんいるし、若い時に一人暮らしをしていたのが笹塚・幡ヶ谷で、それからずっと住んでいる人も多い。基本的に外から遊びにくる町じゃなくて、住むか働くまちだったんですよ。それが最近変わってきて、わざわざ笹塚・幡ヶ谷エリアに遊びに来る人が増えた実感がある。魅力的なお店が増えているんだと思います。

小田:がっついてる人が少ないし、外から来る人を神経質になって拒む雰囲気がないから、心地いいよね。僕はこのエリアで働きはじめて10年ですが、まちの雰囲気が好きなんです。休日になると、朝から夜まで、歩いている人がすごく多い。歩いている人たちがたくさんいる風景っていいなと思って見ています。車で来るまちだと駐車しないといけないし、道路をつくらないと来られない。

デザイナー 小田雄太さん

小田:幡ヶ谷をピックアップして言うと、いまだに自分の中でマップが埋まらないまちです。新しくオープンするお店が多いんだけど、"新しさ”が、世の中で流行っている”新しい”じゃなくて、自分たちなりの”新しさ”を持ってお店を出す感じ。信念を持った店主が多いイメージがある。こういう店たちが僕のマップを塗り替えるんだけど、どんどん魅力的な店がオープンするからいつまでもマップが完成しない。

財津:いま幡ヶ谷は相当おもしろいと思います。もはや、恵比寿とか代官山よりも……ディスっているわけではなく、恵比寿・代官山で飲んでいると、歩いて2軒目を探すのは大変そう、という感覚があって。でも、幡ヶ谷なら2軒目・3軒目はすぐに見つかる。路面に”良い店感”が出ているお店がたくさんあって歩きやすいよね。

上松:幡ヶ谷の中にもレイヤーがあると感じます。でも、レイヤーで区切ってパキッと割れているんじゃなくて、境界線が曖昧で微妙に重なり合っている。うちの常連さんも、この店のクラスター・あの店のクラスターと分かれているけど、たまに混ざり合うから全体的に連帯感がある。
老舗のお店に行っても、常連さんもいるけれど、大将がフレンドリーだから外の人が入っても快く迎えてくれる。でも、酒場としてのルールは崩さない。だから、店のこだわりや雰囲気は崩れなくて、その雰囲気に惹かれて外からお客さんが来る。強制的に「雰囲気を守ろう」とするのではなく、どの店にも「こんな飲み屋の雰囲気をつくっていこうよ」という意識があって、それがまちの魅力に繋がっていると思うんですよね。

『キッチンかねじょう』上松晃大さん

財津:幡ヶ谷の飲み屋さんで話をしていると、隣の席の人が「近くで店をやってます」と会話に加わったりするんです。”同じ地域にいる”という共通言語があるから、ほどよい会話が生まれて、あたたかい雰囲気になる。でも、代々木上原や富ヶ谷だと隣の席は外から来ている人たちという印象だし、観光客が並んでいて入れない店も多い。これから笹塚・幡ヶ谷が変わっていって、あたたかい雰囲気がなくなるのは寂しいなぁ。

光安:たしかに、幡ヶ谷は地域に根付いたお店がダントツに多いと思います。老舗店の常連さんが、僕たちみたいに新しくオープンした店にも来てくれて、おばあちゃんのいるテーブルと、3歳の子どもがいる家族づれのテーブルで会話が盛り上がったりする。この空気感は幡ヶ谷っぽいなと思います。

上松:ローカルの口コミ力がすごいよね。例えば、キッチンかねじょうに来てくれた人が、別の店で僕の店のことを話すんです。そうすると、「◯○さんに聞いて来ました」と別の店の常連さんが来てくれる。「あの店の紹介で来たよ」なんて、他のまちではなかなか無い。幡ヶ谷は人を中心に広がる特殊なまちで、それはすごく良いことだなと思っています。

金山:恵比寿や表参道、渋谷駅周辺は大企業が多いから、お客さんとお店の関係が、そのまま”客と店”のままになっているかもしれないですね。一方でササハタハツは、”客と店”、”客と客”、”店と店”それぞれの横の関係が密接なのだと思う。

財津:横の関係について思い出したのだけど、僕は15年くらい前にすごく面白い経験をしたんです。

>>>後編に続く

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