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頑固なルールは、歴史で解きほぐそう#LOOK LOCAL SHIBUYA恵比寿編

渋谷といえば、スクランブル交差点。そうイメージする人も多いけれど、それだけではない。原宿・表参道・代官山・恵比寿・広尾・代々木・千駄ヶ谷・上原・富ヶ谷・笹塚・幡ヶ谷・初台・本町、これぜんぶが渋谷区なんです。
『#LOOK LOCAL SHIBUYA』は、まちに深く関わり、まちの変化をつくろうとしているローカルヒーローに話を聞いて、まちの素顔に迫る連載です。
 
恵比寿編SESSION3は、「子育てとまちの可能性、課題」がテーマ。イベント運営で起こる行政との折衝の苦労話から、いまの恵比寿が抱える課題、恵比寿の地で夢見ていることまで、ざっくばらんに話し合いました。

ゲストは、2023年で70年を迎えたエビス駅前通り商店街の理事長である雨宮孝幸さんと、恵比寿ビール坂商店会会長の茗荷原剛さん。聞き手は、恵比寿新聞の高橋賢次さんと渋谷区観光協会の金山淳吾です。

左から渋谷区観光協会・金山淳吾、エビス駅前通り商店街町会理事長・雨宮孝幸さん、恵比寿ビール坂商店会会長/株式会社エムプリント・茗荷原剛さん、恵比寿新聞・高橋賢次さん

継続は宝だ

恵比寿新聞・高橋賢次(以下高橋):今回は、まちのレジェンドがゲストです。恵比寿で生まれ育って、ずっとまちを見てきた先輩方と、これからの恵比寿について話し合いたいです。
 
エビス駅前通り商店街町会理事長・雨宮孝幸(以下雨宮):今日は、新しい考え方を知れるかなと思って来ました。いろんな取り組みについて、今までの発想から転換ができたらいいと思います。毎年やっていることはどうしても時間がなくて、同じように決まっていくのですが、「こういうものだ」という考えから、何か新しいものがあれば飛びつきたいです。
 
恵比寿ビール坂商店会会長・茗荷原剛(以下茗荷原):今は、ちょうど恵比寿ビール坂祭りが終わったタイミングです(※対談収録は2022年10月下旬)。コロナ禍から3年ぶりにいろんなイベントが復活した時期に、このメンバーで集まれてよかったです。ビール坂祭りはコロナ前と比べてあまりPRをしなかったのですが、多くの方が来てくれて大成功でした。
 
雨宮:それを聞くとね、7月の盆踊りの中止が本当に残念でした(※恵比寿駅前盆踊りは1954年から続く恵比寿の夏の風物詩。コロナ禍の影響で2020〜2022年まで中止を余儀なくされていた)。コロナの影響を最小限にするために感染対策をして、資料をつくって準備をして、全ての準備が終わったと思ったら感染者が急増して中止になってしまった。

あのまま実行したらどうだったのかな……という気持ちもあるんです。本当に感染対策を考え抜きましたから、一度実行してみたかった。やってみたら、反省点も良い点も出るでしょうから。
 
高橋:もしかしたら、withコロナのニューノーマルになっていたかもしれないですよね。
 
渋谷区観光協会・金山淳吾(以下金山):いろんな地域で言われていると思いますが、継続していた事業ができなくなるとき、1年間できないのは仕方がない。でも、3年間できないと担い手が分断されてしまうという問題が残ります。
 
雨宮:継続は宝ですよ。本当に、(継続は)力じゃなくて宝だと思う。全てのものごとは、宝が徐々に良くしていくんです。一歩一歩と階段を登るように、変化して、進化していくのだと思いますよ。
 
高橋:コロナ禍の3年間の影響はとても大きいけれど、逆に新しい人が入って手伝ったり、「こんなことをやってみよう」という流れも出ている。良いも悪いも含めて、大きく変化しましたね。
 
雨宮:そうですね。コロナをきっかけに、新しい流れができたという言い方ができるかもしれません。

エビス駅前通り商店街町会理事長 雨宮孝幸さん
恵比寿駅前交差点から恵比寿南3丁目交差点間をつなぐ『エビス駅前通り商店街』。雨宮さんは、1971年から商店街町会と関わり、エビス駅前通り商店街や恵比寿のまちの発展に尽力してきた。

社会の価値観に合ったルールづくりを考える

高橋:コロナ禍の3年で行政や警察も担当が変わって、道路使用許可に苦労するという話もあります。
 
雨宮:渋谷では5月におはら祭がありますよね(※渋谷・鹿児島おはら祭:毎年5月中旬に渋谷の中心地で行われるパレード。鎌倉時代に渋谷氏が薩摩に移住した縁を元に1998年から始まった)。おはら祭は道玄坂を通行止めにしてやるので、道玄坂の交通規制のお願いで警察に行ったんです。

どの組織でも起きることかもしれませんが、担当が変わると決定に時間がかかります。そして、翌年は「去年もやりました」と言えばすぐに道路使用許可が下りたりする。コロナ禍の3年で行政の担当が変わり、イベント実施のための準備に手がかかるようになりました。
 
高橋:金山さんの言った担い手の分断問題もあるし、行政も担当者が変わっているから許可を出すのに慎重になる。結果として、活動がシュリンクしてしまうんですよね。茗荷原さんが担当した恵比寿ビール坂祭りも、保健所の申請が大変だったんですよね。
 
茗荷原:そうですね。今回、改めてルールを勉強できたので、すごく面倒ですが、来年はできると思います。とにかくルールは理解しましたから。ただ、ルールの見直しは検討してほしいですね。かなり厳しいです。
 
金山:保健所のルールは昭和40年ぐらいにつくられた法律が元になっているようで、やっていけないことではなく、やっていいことを定義しています。でも、時代は変わっていますよね。

保健所のルールで思い出すのが、とあるオーガニックマーケットのトラブルです。無添加の食品に対して、保健所から添加物が入っていないので出品できないと指導されたんです。保健所としては、それが衛生上の安全面を考慮した指導なのです。添加物に敏感になっている社会の変化に対して、ルールがマッチしていないのですね。
 
雨宮:非常に遅れている部分があるのは確かです。しかし、彼らには「もしも」があるわけです。もしも何らかのトラブルがあれば、彼らは責任を取らないといけない。警察や保健所は責任ある立場だから、自分たちがミスをするとネガティブな影響が計り知れない。今はそういう社会だから、仕方がないよね。

https://twitter.com/ebisubondance/status/1667520460622540805

雨宮:恵比寿駅前盆踊りは昭和29年(1954年)から始まって、最初は学校の校舎でやって、その後恵比寿駅前でやっていました。ところが、駅前の交通規制が大変になってきて、警察から恵比寿公園でやりなさいと言われてね。場所を恵比寿公園に移して開催した時期があります。でも、やっぱり駅前でやりたい。それで、平成4年(1992年)にようやく警察の許可が出て駅前で開催したんです。

ただ、露天商の出店は許可が出なかった。それから数年間は、屋台なしで盆踊りだけをしました。数年後に、2〜3のイベントを併催してもいいかと警察にお伺いをして、それから少しずつ今のかたちになっていきました。
 
金山:一度は公園開催になったのを、駅前で開催するところまで持っていった。それがすごいです。
 
雨宮:駅前開催になって、近年では6万人くらいの集客をするお祭りになりました。炭坑節だけではつまらないということで、リズミカルに踊れるオリジナルソングもつくって。恵比寿ラヴィアンローズを踊らないと、夏が終わらないという人もいます。
 
茗荷原:盆踊りは行ってないのに、盆踊りのCDは買いに行きました(笑)。

恵比寿ビール坂商店会会長/株式会社エムプリント 茗荷原剛さん
恵比寿4丁目から恵比寿1丁目を境に下るビール坂を中心にした『恵比寿ビール坂商店会』の会長で、株式会社エムプリントの代表も務める。『恵比寿ビール坂祭り』は2023年に11回目を迎え、恵比寿の秋の名物として定着しつつある。

高橋:そもそも盆踊りのはじまりは、戦後の焼け野原で娯楽がなかったまちを見て、少しでもみんなを明るくしたいという思いからですよね。先輩がたの心意気を見習わないといけない。そして、今の社会の状況に合った新しい祭りをつくるには、警察や消防署、保健所との折衝からはじまって、ルールに合わせていく必要があるわけですが……。
 
金山:ルールは守るものでもありますが、新しい時代背景や世代の価値観に対して、ルールをつくっていく時代にシフトすることも必要です。
 
高橋:条例も改正していくべきだと思って、いま調べているのは東京都と渋谷区の食品安全条例です。どちらが厳しいかというと、渋谷区です。東京都の基準に合わせていくだけで、改善できることがあると思うんです。
 
雨宮:それは必要ですね。どんな条例も、だいたい区のほうが厳しい感覚がありますね。
 
金山:新しく来た人が新しいルールでやりたいと言っても、おそらくダメなんです。新しく来た人たちが「新しいルールを!」と言っても「誰ですか?」となってしまうから。元々まちで取り組みをしている人たちが、「新しく来る人たちが新しいチャレンジをするためにこんなルールをつくりたい」と言ってくれないといけない。たとえば、ずっとまちで盆踊りを催行してきた人たちが「今の時代には、こんなルールが必要だ」と言ってくれると、信頼性が担保できてルールを変えていけると思うんです。

渋谷区観光協会 金山淳吾
1978年生まれ。電通、OORONG-SHA/ap bankを経てクリエイティブアトリエTNZQ設立。2016年から一般財団法人渋谷区観光協会代表理事として渋谷区の観光戦略をプランニングしている。

茗荷原:経験がものを言うんですね。
 
雨宮:大事なことですね。やらないと経験は積めないですから。口だけではダメなんです。
 
金山:2016年に渋谷区基本構想を20年ぶりに刷新しました。「渋谷区すべてを、エキシビションと考える」という項目があり、渋谷はエンタテイメントシティとしても発展していくと制定しています。

文化が生まれるまちづくりを目指して、新たなサービスがどんどん生まれることで観光都市・渋谷の魅力をつくっていこうとしているのに、ルールが厳しすぎて新しいサービスの提供が難しくなるのは矛盾しています。
こんな状況で、市民代表の議員さんや実績を持っている地域のお祭りが母体となって、新しいルールづくりにチャレンジしていただきたいと思うんです。

 
雨宮:歴史と新しいルールは、相反するものと捉えられるかもしれません。でも、歴史があって今があるわけで、歴史に対して物事を考えないと何もできないと思います。「新しいものは新しいのだから」も良いけれど、新しいものの背景には相応の歴史と思考があることに思いを巡らせたいです。
 
茗荷原:僕がやったのは渋谷区の道でやるお祭りだけど、それでも結構大変でした。雨宮さんたちが取り組んできた盆踊りは、あの規模で開催するようになるまで一体どんな苦労があったのか。
 
高橋:それこそ、歴史で培ってきたものがありますね。僕は、バスも含めた交通規制にびっくりしました。

恵比寿新聞 編集長 高橋賢次さん
1975年、奈良県生まれ。2009年に『恵比寿新聞』を立ち上げる。恵比寿ガーデンプレイスにあったパブリックスペース「COMMON EBISU」のプロデュース、大学の非常勤講師、各種イベントの企画・運営など活動は多岐にわたる。

雨宮:バスはね、毎年必ず東急バスと都バスを訪れてお願いをするんです。今は過去の実績があるからいいですが、最初は大変でしたよ。仮設のバス停はどこに置くのか、どう並ぶのかなど、バスの運営側には商売がかかっていますから。

金山:バスで思い出しました。渋谷で交通規制をかけたイベントをやったのですが、思いもよらぬクレームがきたんです。イベント当日に、カーシェアリングで借りた車を返却しようとした方が、交通規制で駐車場に入れず車が返せないと。数週間前から案内を出しておけばいい話ですが、コロナ禍でカーシェアリングが増えていることに思いを巡らせて、新しい社会になっていることに注意しないといけないなと思いました。

 茗荷原:イベント会場の中には、どんな道があってどんな人が利用するのか、どんな建物があるのか、全て見ないとダメなんですね。

恵比寿駅前盆踊りに、事故がない理由

雨宮:祭りをするために行政と何年もかけて関係を築いていくのですが、一度でも事故があると積み重ねたものが消えてしまうから、慎重にやらないといけないですね。
 
高橋:恵比寿駅前盆踊りは事故ゼロですよね。すごいことだし、強みです。
 
雨宮:地元の人たちが協力してくれています。ガードマンには駅前の交通規制をする要所に立ってもらって、会場内の整備と警備は全て地元の消防団やボランティアと我々でやっています。
 
金山:良いお祭りと、そうでもないお祭りの差はそのあたりにヒントがありそうです。
 
雨宮:整備している人、警備している人、みんなが顔を知っていると安心感に繋がるんです。
 
高橋:盆踊り関係のみなさん、本当に仲がいいですよね。
 
雨宮:一人ひとりが、いろんなかたちで盆踊りに協力して参加している感覚があると思います。
 
茗荷原:会場に顔見知りが多いから、トラブルがないのでしょうね。
 
金山:本場のよさこい祭りは、終了後にゴミが落ちていないと言います。そして、規制退場をしなくてもいいと聞きました。踊り子も見学者も、自分は主催者側だという意識でいるから引き際も美しいのだと思います。祭りがつくりあげてきた、まちの力の一例ですね。

>>パート2では、まちのモラルと、これからの恵比寿で叶えたい夢について語り合います。
https://note.com/play_shibuya/n/n7732d3707274


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