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お使い もしくは そのもの

夕べ、喧嘩をした。
些細なことだった。

あー、もう、腹立つ!ちょっと出て来る!という私を追いかけて来る相方。自分も行くと。

そんな大袈裟なことではないのだ。些細なことで腹を立てる自分を静めるために、ちょっとタバコ片手に外の空気を吸いたかった。

それをついて来ると言われてはどうしようもない。と、また腹を立てるわけである。ええ、器が小さい人間ですから。

器が小さい人間なものだから、優しい言葉で愛を伝えられる通常に戻るために外に出たいと言っているわけだ。

というのも、自分の気持ちだけを考えている証拠で、相方には相方の『今の気持ち』がある。今出て行って欲しくないわけである。

自慢ではないが、短い間に多くのことを感じ取るのが長所でも短所でもある。だから、全部分かっているのだけど、玄関のドアを開けるところまで行ってしまう。

その時、『え?』と声が出て足を止めてしまったのには理由があって。

ドアを開けるなり、一匹のヤモリがそこに居て、しかも、上体を起こしてジッと見詰めていたからだ。

ヤモリは、ほんとに小さな生き物だ。

そう言えば、引っ越して来た2年前、網戸にやばりついて、こんな白いヤモリくんが腹を見せて挨拶に来たなあ。多分2年前のnoteにも書いている。

それはともかく、何故に玄関のドアを開けるタイミングで、そこに上体を起こして『待てい』と言わんばかりに存在しているのだろうか。何で一発で目が合うところに?

真っ白な身体で瞳がルビーのように赤い子だった。

私が驚いて立ち尽くしているので相方も怖がって玄関の内側で立ち止まっている。

『何?霊?いつも見える時が唐突だよね。』

いや、生きている。生き物。見て。

そう言うと、言葉が分かるようにササーっ!と走り出すヤモリ君。いや、ヤモリ様?

しかし『待って。』と言うと立ち止まる。2年前と同じで言葉が分かるんだなー、これ。

大人になってからは爬虫類も両生類も苦手になっていたのだけど、夜の闇の中で彼だか彼女だかは、とても美しく見えた。

『写真撮らせて。』とお願いすると、コクっと頷く。見た?見た?と思わず相方に確認してしまうくらいに。


そして斜め上に首を振り『入りなさい。』と言わんばかりの仕草。

誰の言う事も滅多にきかない私は、小さな生き物の言うこと(?)を聴いて、家に戻り、大事な人に自分の言葉で気持ちを語ったのだった。

ただそれだけの話だけど。

どこかでその様子を聴いていてくれたかも知れない。

また会えたら良いな。今度は平和なときに。

多分私は、その白い小さな生き物、もしくはその姿を借りた何かに心からお礼を言うだろう。

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