ひとりブラック企業

今居る高齢者施設では、細々とした処置やバイタル回りをしている。以前居た施設では一年足らずで管理職にされてずっと出来なかったことなので、今が楽しくもある。

が、ご利用者さんは、三度の食事の他にもレクリエーションがあったり、入浴だったり、マッサージやリハビリがあったりと、常に稼働している。高齢者さんたちも忙しいのだ。

その邪魔をしないで処置に入るために工夫が必要になる。

そんな中で休み明けの主任が「今後AさんとBさんの処置は私がやる。」と言うので任せたのだが、たったの2人で2時間も帰って来なかった。しかも「創部の写真撮るの、忘れちゃった。（てへぺろ）」。

何10人もの処置をして帰って来たHさんが「写真を忘れました」と言った時には怒号していたので、このてへぺろには絶句。
それと傷口を一時間もいじられていたら利用者さんも苦痛だというのが何故わからないのか。

しかも、それはもろにレクリエーションの時間と被っていて、それを楽しみにしていた高齢者の生きがいを一つ減らす行為でもあった。

それでも気が付かない。

その翌日は、私が処置係だったのだが、夕方になっても動こうとしないので、これはおかしいと思い、”AさんとBさんの処置だけやらないで取ってありますよと？”と声をかけたら、ぎょっ！とした顔をしている。信じられない。忘れていたのか。

「ごめんなさい！今日は忙しいのでやってもらっていいですか？」←誰が見ても何もやってない。忙しそうではない。

先述したように段取りというものがあるので、自分一人ならテンポよく終わっていた仕事のリズムが、あれよこれと言う間に狂い、いつもより終わるのが遅くなった。
いらっ！としたのだが、それでも定時の時間に終わったのでよしとしようと気を取り直したのだが。

その時、彼女が施設長に電話をしている。「施設長～。仕事が終わらないので30分残業しますぅ～。」と。
なんでも、この企業は残業する際には前もって上司に断りを入れなければならないらしい。

すると電話の向こうから長の声がここまで聞こえている。かなりの怒号だ。もう長年の付き合いだから彼女のことを理解しているのだな。

電話を切ったあと「酷い。酷いよ。終わらないから残業するって言ってるのにダメだなんて！ブラック企業だと思わない？！酷いよね？！」

そのままいつものように長い愚痴に突入して行きそうだったので「どれが30分以上の仕事？！」とデスクに目を泳がせながら質問した。

「定期診療のこの4人のことを電子カルテに打ち込むの。」

・・・・・・・。たったそれだけかよ。これはボスも怒るよ。

無言で私が打ち込み出したところ、彼女も打ち込み出してくれた。

終了したのは17時25分。ものの１０分もかからない仕事だった。

イラっとするのは遅いからじゃない。怠けた余力で他の人々の仕事の邪魔をするからでもあるし、自分が寂しいという理由でお気に入りの人間を一緒に残業させようとする根性でもある。

脅したり怒号したり、それでも思い通りにならない人間を恐れ、持ち上げてみたり仲良くしようと機嫌を取ってみたり。

が、今回あなたが気に入って色んなことの道ずれにしようとしている人間は、あきらかに人選ミスだったと思う。

時計の針が30分を刺したところで「さあ！帰りますよ！」と言うと弾かれたようにバッグを小脇に抱えてくれたので、一緒にエレベーターを降りた。

巻き込み型の人間はうざいから嫌いだ。でも、あなたの好きなところもある。
だから、関わる。
仕事だから関わるしかないって話もあるが、私は仕事であっても関わらない人とはもっと関わらなくて済むように調節する。（若干狂暴なので、結果的には、それが世のため人のため。）
幸か不幸か、私はまだあなたのことが嫌いではない。（多分あなたにとっては不幸なことだろう。）

だから、本来パワフルなあなたが、支配的な本性でネガティブな方へ巻き込もうとするのなら本気で逆回転する。

自分の仕事というのは、誰かにアピールしたり褒められたりするためにやるものではない。利用者や患者本位のものだから。
そういったわけで、私は今年も自分の仕事を守って行く。