『おもちゃの科学 第3集』 ジャグリングできる人は器用なのか?

こんにちは、まさやんです。今回はおもちゃの科学、第3集から、『無器用の皿まわし』を読みました。

まず読んだ内容の要約、そして、キーワードになっている器用さについて、脳神経内科医らしく脳と運動学習を絡めて考察しました。

本の表紙はこんな感じ

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もともとは1976年8月に雑誌に書かれた記事のようです。
著者、戸田盛和氏は木の菓子鉢にみりんの瓶の蓋を付けて、自作の皿回しセットを作って挑戦されています。
不器用を自負される戸田氏も見事回せたようで、『無器用でも、何とか皿まわしのまねごとができたという満足を味わった』そうです。手先の技術としての器用と不器用の話から、不器用でも堅実な運転の安全さ、"器用に"発達した科学技術による環境破壊などについて、と話を展開し、『無器用礼賛論』として締めくくります。
おもちゃの科学 第3集 日本評論社 戸田盛和 1995


その皿がこちら。

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直径20cm、底4cm、高さ4cmの木の菓子鉢に、直径3cmのみりんの瓶の蓋を接着剤で貼りつけたそうです。蓋は二重構造になっていて、棒が当たる内側の直径は1.4cmだそうです。参考までに、INNEのグリップ(=糸底=棒が当たる部分)は10cmくらいなので、相当小さいですね。

グリップ(糸底)の部分が小さければ、棒の先端の動きが多少ブレてもグリップの内壁と先端が離れる時間は短く、皿回しは安定しやすいです。しなりのある棒と合わせれば、手の動きが多少のズレても大丈夫です。投げたりキャッチしたりには向きませんが、"不器用"でも回せる、良い皿の作り方だと思います。

ところで、皿回しができる人は器用なんでしょうか?
答えは「必ずしもそうとは限らない」だと思います。
私自身のことを思い返せば、小学生の時は逆上がりもできなかったし、サッカークラブにいたのにリフティングは10回もできない、スポーツは苦手な子供でした。

ところがジャグリングを始めて、一日何時間もの練習を続けて、大会で優勝することができるほどになりました。色々なジャグリングを練習するうち、生活の中では、いつの間にか、落ちそうになったものをさっとキャッチする、ペンやペットボトルを手元でくるっと回す、なんて動きはすごく簡単にできるようになっていました。研修医の時には、手術中に術野から落ちそうになった器具をパッと受け止めて、看護師さんから拍手されたことがあります。(もちろん、キャッチしたのは尖ったものではありませんでした。メスだとしたら怖すぎますね。)
とにかく、これらの動きは、そこだけ切り取ったら、とても器用に映るでしょう。

リハビリや運動学習の分野では、汎化(転移)という考え方があります。習得した動作が、類似した他の動作に応用され、学習を早めるということのようです。

人間の脳は、神経の細胞たちがつながった回路で機能します。例えば肘を曲げたいとき、脳の一時運動野の上腕二頭筋(肘を曲げる筋肉)を担当する部分の細胞が興奮して、上腕二頭筋が収縮すると肘が曲がります。しかし実は、同時に上腕三頭筋(肘を伸ばす筋肉)が緩んでいる必要があり、上腕三頭筋を担当する神経細胞の活動を抑える回路が働きます。スポーツなどで使うような複雑な動作も、こういった回路の組み合わせで構成されていきます。

もう一つ、少し複雑な動きの例を出すと、緊張性頸反射というものがあります。生後1か月くらいの赤ちゃんから見られるようになる反射で、寝かせている赤ちゃんの首を横に向けると、特徴的な体勢になります。

画像4Milly(https://millymilly.jp/column/51426)

この姿勢の反射は生後4か月くらいで消失するはずなのですが、飛びついてフライを取る野球選手を見ると…

画像3少年野球blog(http://metoo.seesaa.net/article/462107026.html)

同じ姿勢をしてますよね。人間の脳は既に獲得した回路をうまく使って、新しい動きを覚えていきます。

ジャグリングの技術に話を戻すと、投げたボールや皿をキャッチする時には、空中での軌道から、手を伸ばすべき場所を読むという感覚があります。さらに皿回しでは、投げた皿を棒の上で受け止める時は、クッションを効かせて柔らかく受け止める感覚があります。私はけん玉の基本技の習得は非常に早かったですが、ボールジャグリングや皿回しとけん玉は、玉の軌道を読んで、クッションを効かせて受け止める、という部分が共通していたからだと思います。前述の落としたものをキャッチする、ペットボトルを手元で回す、という動きも、ジャグリングの動きの汎化で獲得できそうです。

器用さを「難しい動きができること」「新しい動作を会得しやすいこと」だとすると、これまでにどんな動きを獲得してきたかに大きく影響されます。

あたかも生来の性質のように言われる"器用さ"には、努力で得たものが多分に含まれている気がしてなりません。


今回は以上になります。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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