見出し画像

ウォーカブルとウォーカブルを支える公共交通・自転車の融合点を道路空間の再配分から考える@ソトノバTable#47

 Plat Fukuoka cyclingは福岡を中心に日本の都市が世界トップの自転車都市になるために活動をしています。ただし自転車だけの移動手段で私たちは住む都市や地域を移動しているわけではなく、他の交通手段を使いますし、その都市の都市計画などの要素があることから、都市をマクロとミクロで包括的に俯瞰しながら、その中で自転車がいかに活用されることで自転車(にやさしい)都市が目指せるかを追求しています。
その最も重要な考えがウォーカブルシティという考えです。ウォーカブルと自転車については、昨年の夏にウォーカブルシティの提唱者であるジェフ・スペック氏の来日に合わせ下記の記事でまとめたところです。

今回は日本の都市の動きから、自転車戦略そしてウォーカブルにつながるポイントを考えていきたいと思います。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47での論点と自転車戦略との関係

 先日の17日に開催されたソトノバTABLE#47にて、ウォーカブルと公共交通の関係について考える機会をいただきました。そこでやりとりのあった論点とここでは自転車政策の観点から考えていきたいと思います。

冒頭、中野さんより居心地がよく歩きたくなるまちなかを目指すウォーカブル政策に交通政策が直接連携していないことが示されました。もちろんここに自転車政策も入っていません。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47:中野竜氏スライドより

 いまのウォーカブル政策では、都市生活機能として必要不可欠であるクルマの扱いが曖昧なまま(自転車も車両の一部)進んできています。その意味で、当日の発表では国内外都市の交通分担率からデンマークのコペンハーゲンでもクルマの分担率は30%を超えているけれども、歩行者中心のまちづくりを実現できていることを示した上で、交通、特に自転車がどんな役割を果たすことができるのか考えました。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47:安樂スライドより

ウォーカブルなまちなかを歩く人びとが何を目的にその場所を訪れ、そのためにどのような手段でやって来るかを考える

 福岡を拠点に企業のコンサルティングやまちづくりのプロジェクトに携わられているLocal Knowledge PlatformLLC.の榎本さんより歩く人を含めた交通についての基本的な考えとして、交通需要というものは派生需要であり、何かの目的を達成する(本源需要)のために、はじめて発生するものであることを示していただきました。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47:榎本氏スライドより

 この考えから、ウォーカブルな都市を構想する際には、その都市の場所ごとにどれだけの本源需要(見込みを含む)があり、その場所にどれだけの派生需要である交通需要が発生するのかを検討する必要があること。そして、その交通需要をどのような手段で分担して都市全体の都市空間の最適化を図っていくかがウォーカブルシティを最大のポイントであり、今回のウォーカブルを支える公共交通の議論のテーマだったと理解しました。

人びとの移動をいかに効率的にかつ魅力的な都市空間創造のために取り組むべきかー自転車のできる役割について

 ウォーカブルな都市空間を創造する上で、その場所に非常に多くの交通需要がある場合、必然的にこのエリアに向かっての交通が発生します。都市には様々な目的地があるため、ある人にとっては目的地であっても、別の人にとっては通過地点でとなります。
都市の回遊性や居心地のよさのためにそのエリアの一体感(道路によって分断されないこと)が必要です。それを示したのが、榎本さんより提示いただいた交通量と道路を挟んだ街区の交流機会のバランスを示したアップルヤードの図です。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47:榎本氏スライドより

 HEAVY TRAFFIC(交通量が重い(多い))である左の図の場合、Neighboring and Visiting(交流機会)の線は少なく、LIGHT TRAFFIC(交通量が軽い)場合は線が密に道路を挟んでも行き来が多く回遊性が高いことを示しています。つまり、人の移動ではなく、車両の交通量をいかに制御するかでその都市空間の回遊性や居心地のよさに影響してくるということが言えます。

ウォーカブルを支える公共交通と日本の現状|ソトノバTABLE#47:榎本氏スライドより

 そのためにやらなければいけないのが、榎本さんが示された「交通行動」へのアプローチです。1車線の空間で運べる人の量を徒歩もしくは各種車両で示したものです。「道」を変えるためには、まず「交通行動」を変えて、限りある道路空間を人間中心に割り当てないといけない。ということです。

日本における道路空間の再分配における議論ー兵庫県尼崎市の自転車道整備での事例

 日本国内でも道路空間のうち、車道を削減し歩道拡張などを実施する事例がいくつか取り組まれています。ここではその中でも自転車の通行空間をめぐってい行われた兵庫県尼崎市での事例から紹介します。

道路空間の再分配—いかに車線を減らして空間を創出するか、尼崎市の自転車道をめぐるストリートファイト

 まず現在の道路空間を形成している道路関連の制度の現状について、三浦詩乃氏は『ストリートデザイン・マネジメント』にてこう記しています。

現在施行されている道路関連法令は、モータリゼーションの時代に問題の起きない道路網を建設してくためにつくられたものである。その後、土木分野の専門家らの尽力もあり「車道を中心として道路全体の構造を定める現在の考え方を改め、歩行者、自転車、路面電車等の公共交通機関、緑および自動車のための空間をそれぞれ独立に位置づける」方針に転換し、道路構造令に明記されたのは、2001年とつい最近のことである、しかし、現在も原則として第1種~第4種までの道路の区分方法は従来と変わっていない。

(編著)出口敦、三浦詩乃、中野卓(著)中村文彦、野原卓、宋俊煥、村山顕人、泉山塁威、趙世晨、窪田亜矢、長聡子、志摩憲寿、小崎美希、廣瀬健、吉田宗人:ストリートデザイン・マネジメント:学芸出版社 P26

 三浦さんが上記で書いている新しい考えで道路空間の再配分を行った事例が日本でもトップレベルの自転車利用率を誇る兵庫県尼崎市の幹線道路の近松線で進んでいる道路空間の再配分の例になります。
 近松線の正式名称は大阪府道・兵庫県道41号大阪伊丹線で、尼崎市内は人形浄瑠璃(文楽)の劇作家である近松門左衛門に由来し近松線と呼ばれています。2017年前後の整備が完了し、これまで片側2車線、計4車線だったものを片側1車線、計2車線とし、余剰の空間を自転車道として整備した事例です。(下記リンクよりGoogleストリートビューで確認できます)

この近松線をめぐっては尼崎市議会でもその整備の方向性と問う質疑が行われています。この質疑は市議の方と答弁した行政側が非常に本質的なやりとりを行っている大変すばらしいやりとりがなされています。

兵庫県尼崎市議会会議録 平成29(2017)年3月議会報 予算予算委員会第1分科会

下記のニューヨークの道路空間の再配分を仕切ったニューヨークの交通局長であったジャネット・サディク=カーン氏は著書『ストリートファイトー人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』(セス・ソロモノウ氏共著)の日本語版にこう寄せていました。

日本が築き上げるべき未来は、すでにある街路の中に見ることはできます。おそらく日本には、私が訪れたどの国よりも(中略)素晴らしい自転車の都市をつくり出すための資産がすでに存在しています。しかし(中略)サイクリスト※5の数は、アメリカ、カナダ、あるいはヨーロッパの大多数の都市より多いにも関わらず、自転車インフラがほぼ整備されていません。(中略)日本の自治体のリーダーは、この重要性を認識して、優先的に取り組む必要があります。自治体がもし現在自転車を利用している人数に即して道路空間再配分したら、ほぼすべての街路に自転車レーンが整備されるでしょう。

ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ:ストリートファイトー人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い:学芸出版社、2020.9 P4

紹介した尼崎市での議会での道路空間の再分配によるクルマへの負荷への不安を受けた市民を代表した市議会議員の方の質疑に対して、行政サイドの明確な理念とデータに基づいた答弁はニューヨークでサディク=カーン氏が取り組んできたものそのものと言えます。

このような一つ一つの取り組みが日本の道路空間、都市空間を変えていくきっかけになっていくと信じています。

では、より広範囲の都市全体を俯瞰してウォーカブルな政策を行なっていくには、今回の尼崎市のような1つの路線ごとで取り組んでいっても都市内を縦横無尽に走る道路を政策的に展開していくには人的資源がどれだけあっても足りませんし、人の行動は複雑性を増す一方のためやはりDXツールが果たす役割が大きいのだと思います。
 次回のソトノバTABLEはまさに「ウォーカブルシティを実現するDXツールの最新事例」がテーマになります。ぜひ多くの方とこのアイディアを共有できることをたのしみにしております。
 申し込みは下記リンクよりどうぞ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?