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作品が「死ぬ」って、どういうことだろう? ー メディアアートの輪廻転生 @山口情報芸術センター[YCAM]

 作品が「死ぬ」って、どういうことだろう?

 ー 壊れてしまったとき? 誰からも忘れ去られてしまったとき?

 そんな「作品の死」について考える展覧会でした。

「メディアアートの輪廻転生」@山口情報芸術センター[YCAM]

 YCAMは、山口県山口市にある “メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動する” 機関。そのYCAM のアトリウムの広い空間に現れる、古墳のような「メディアアートの墓」

 ここにアーティストが ”「死」を迎えた” と感じる自分の作品 を収めた展示です。

 とりわけ「メディアアート」の分野では、メディアが壊れたり、再生するためのデバイスが生産されなくなったりして ”もう見られない”という物理的な寿命は、絵画や彫刻に比べると短いようにも感じられますが、それだけではなく、作者の意思だったり、規制の変化や、倫理観の変化など… 様々な側面での「死」があることに気付かされます。

 この展覧会は、YCAMの伊藤隆之さんとメディアアーティストのエキソニモがキュレーターを務める展覧会ですが、エキソニモ自身が「メディアアートの墓」におさめた作品は、ある1日を過ぎただけでその意味を持ち得なくなってしまうもので、「死」はその新旧には関わらないことも示唆されます。

(「ゴット・イズ・デット」 / エキソニモ)

 この展示は オーディオガイドを聞きながらの鑑賞するのですが、そのガイドを再生するデバイスは、現在使用されているiPadやiPhoneから、たった数年前でも「懐かしい〜!」と思わず言ってしまうような旧型のiPod、カセットデッキなどもあって ここでもメディアの変化の速さを体感するとともに、その選択肢のひとつである紙のテキストの扱いやすさを感じるとともに 将来的にはずっと”残る”物でもあるのかなと複雑な気分にもなります。(解説が機械音声で、ところどころで違和感を感じたのも意図的なものだったのでしょうか。)

 ところで、「死」というとネガティブなイメージにも感じますが、”死んだ”作品が、形を変えて生き返ったり、第三者によって再生産されたりといった「輪廻転生」の可能性も示されていたのは、また、メディアアートらしい一面にも感じました。

(「YMOテクノバッチ」 / 藤幡正樹 )

 作品で扱われているものが、技術の目新しさや視覚的なインパクトの大きさだけであれば一過性のものになるのかもしれませんが、その中に思想が含まれていると、技術の形が変わっても同じ議論や欲求は形を変えて繰り返されていたりするのかもしれません。

(「Mosquito」「9の1」「10 seconds ago」 / 徳井直生 )

 八谷和彦さんがそれを ”クマムシの乾眠状態” に例えていて、作品によって「必要なもの」(八谷さんの作品の場合は指示書)が残っていれば生き返ることができる、と仰っていたのが印象的でした。物理的な寿命が短いと思っていたメディアアートが、一方では指示書や図面から再生可能である可能性もあるというのは生物の適応ような柔軟性も感じられます。

(「ひかりのからだ」 / 八谷和彦 )

 ちなみに、この展覧会はこれまでの15年の間にYCAMと関わりのあったア100名以上のアーティストへの、以下の4つの質問に対する答えをもとに構成されており、会場内にはそこから印象的な言葉が展示されています。

ご自身の作品の寿命について考えることはありますか? どのようなことを考えていますか?
タイムマシーンで100年後に行けるとしたら、どのような形であなたの作品と出会いたいですか?
人の死についての定義も様々ですが、もし「作品の死」を定義するとしたら、あなたはどのような状態が作品の死だといえると思いますか?
YCAMに作られる「メディアアートの墓」に、ご自身の作品の中で入れたい作品はありますか?もしあるなら、どの作品をどのような形で入れたいですか?

 web上でもそれぞれのアーティストによる回答が公開されていて、展示しきれていない問題提起があってかなり読み応えがあり、展覧会の外にあるもうひとつの展覧会のようで、いままでの美術館での「展覧会」とは異なる、新しい展覧会のかたちが示されているようにも思えました。

 展示自体はそれほど大きなものではなく、特設webを見るだけでも十分価値のある展覧会だったとも思う一方で、この展示の全体像を見られて良かった、と思える展覧会でした。

 10月28日(日)までです。

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■メディアアートの輪廻転生 @山口情報芸術センター[YCAM]

会期:2018年7月21日(土)〜10月28日(日)
時間:10:00〜18:00
休館日:火曜日
会場:YCAM ホワイエ
料金:入場無料

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