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幸せな記憶とつながる お菓子のアートに没入する展覧会|渡辺おさむ お菓子の王国II(高崎市美術館)

パステルカラーのメリーゴーランド。近づいてみると、カラフルなマカロンやカップケーキ、生クリームなど、美味しそうなお菓子で創られています。

たくさんのお菓子の作品で満たされた展覧会「渡辺おさむ お菓子の王国II」が群馬県の高崎市美術館ではじまりました。思わず幸せな気分になるその展覧会をレポートします。

▍色とりどりのお菓子の世界への没入体験

「渡辺おさむ お菓子の王国II」展は、2014年に高崎市美術館で開催され、1万5000人の来場者を迎えた「渡辺おさむ お菓子の王国」展から10年を経た展覧会。3つのフロアにわたり、渡辺おさむさんによるお菓子をモチーフにした作品がインスタレーションとして展開されます。

これらは本物のお菓子ではなく、なんと樹脂でつくられた作品。それでは、お菓子のアートの世界に没入できる展覧会をめぐってみましょう。

●お菓子の森

3階の展示室には、お菓子で創られた動物たちが並びます。パンダや羊、キリンといった動物園で見かける動物のほか、一角獣のような想像上の動物も。

遠目に見ると、パステルカラーの動物の可愛らしさが目に入りますが、近づいてみると、そのふわふわとした毛並みは生クリームで表現され、マカロンにクッキー、モンブラン、ウエハースなど、本当に多くのお菓子から創られています。

なお、本展ではほとんどの作品が撮影OK。この動物たちとも一緒に記念撮影ができました。

●おかしの水族館

2階の展示室は、大きな海をイメージした青い空間。たいやきが泳ぎ回る海の中では、クリームやお菓子で作られたイルカやタツノオトシゴ、タコなどの生きものたちと出会えます。

海の生き物の95%は完全に解明されていないから、もしかしたら海の中にはこのようなお菓子みたいな生き物もいるんじゃないか?と、固定観念を取り払って制作された作品です。

●お菓子のファンタジー

3階の「お菓子のファンタジー」には、メリーゴーランドや大きなティーカップが並びます。幼い頃にきっと誰もが憧れたことがあるお菓子の家の中には、クリームで出来た子犬も。

見ているだけで幸せな気分になれる作品について、渡辺さんは「この10年間、不安な世の中にはなっているわけですけれど、作品の世界だけは夢のある世界にしたいと思っています。美術館に来ている間は、ファンタジーの世界に移入できるような空間にしたいなと思って制作しました。」と語ります。

▍高崎市美術館の作品とのコラボレーションも

2階の展示室では、「お菓子の美術館」として、世界の名画をお菓子で表現した作品も展示されています。

例えば、伊藤若冲が約1cm角の升目によって動物と鳥の楽園を描き上げた《樹花鳥獣図屏風》は、その升目のように細かくクリームを絞り出すことで表現されています。2枚合わせて幅6m40cmというこの大作は、2020年の緊急事態宣言の中で1ヶ月をかけて制作されたそう。

また、渡辺さんによるチョコレート風に表現されたロダンの彫刻が、高崎市美術館所蔵のロダンの彫刻作品と対峙する展示も。

このほか、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなど、高崎市美術館の所蔵するポップ・アートの作品たちとのコラボレーションも展示されています。これらは、10年前の展示で渡辺さんが高崎市美術館のポップ・アートコレクションを観たことともつながっているそう。

こうした世界のポップ・アートの延長線上に現代の渡辺さんの作品があるようにも感じられる、高崎市美術館だからこそ観ることができる展示です。

▍お菓子がつなぐ幸せな記憶

3階には「お菓子の晩餐会」として、長いテーブルに多くのお菓子や、お菓子で彩られたティーポットやカップが並びます。

どれも本当に美味しそうですが、わたしたちの記憶しているお菓子の”美味しそう”な色は、実は実際よりもやや誇張した色になっているそう。実物そのままではない、記憶の中にあるお菓子を表現することで、観る人がお菓子に対して持っている幸せな記憶と結びつくのではないかと考えていると渡辺さんはいいます。

このようなお菓子を模した作品は、今では「フェイクスイーツ」や「スイーツデコ」としても知られますが、渡辺さんが作品を制作しはじめた24年前にはそうした呼び方もありませんでした。美大生時代、オリジナルの表現を探る中、お菓子の先生をしていた母親との幼い頃の記憶から、こうした表現にたどり着いたといいます。

美術作家・渡辺おさむさん

渡辺さんの作品を観て幸せな気分になれるのは、お菓子が美味しそうだというだけでなく、”記憶の中”のお菓子の表現を通じて、観る人の幸せな記憶を思い起こさせるからかもしれません。

まとめ

展示の中では、渡辺さんの制作されたフェイクスイーツに触れるコーナーもあり、本物そっくりのお菓子が本当に樹脂などで作られていることに驚きます。

今回の展示を拝見しながら、お菓子にまつわる思い出は、幼い頃の誕生日やクリスマス、学校での友人たちとの思い出といった、幸せな記憶とつながっているように感じました。不安も多い時代に、そういった幸せな記憶とつながる、お菓子の空間に没入してみませんか?

展覧会概要|渡辺おさむ お菓子の王国II

会場:高崎市美術館
URL:https://www.city.takasaki.gunma.jp/site/art-museum/39528.html
会期:2024年6月29日(土)~9月1日(日)
時間:10:00~18:00(金曜日のみ20:00まで)
入場料:一般600円、大学・高校生300円


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