見出し画像

目の前のイメージと、頭の中のイメージ。 ー千田泰広 「イメージからの解放」 @武蔵野市立吉祥寺美術館

 目に見える壮大なインスタレーションと、作品自体は小さいながらも頭の中に作られるさらに壮大なイメージの両面から楽しめる展覧会でした。

 千田泰広 「イメージからの解放」 @武蔵野市立吉祥寺美術館

スクリーンショット 2020-02-07 20.22.49

 近年「世界の優れた9人のライトアーティスト」のひとりとして紹介されているというアーティスト・千田泰広さんの個展です。

 2018年の種子島宇宙芸術祭で小さな小屋の中で展示されていた《Myrkviðr》という光をつかった知的で幻想的なインスタレーションが印象的で、今回、初めて個展に伺いました。

画像2

(《Myrkviðr》 / 千田泰広)

1) 幻想的な光のインスタレーション

 目玉となるのは、展示室1室を使った光のインスタレーション《Annalenma》。「暗いので、しばらく壁際で目を慣らしてください。」とのアドバイスをもらい展示室に入ると、部屋中を縦横無尽に流れ星のような小さな光が走り回っています。

 目が慣れてくると、会場の空間いっぱいに細かく張り巡らされたテグスにプロジェクターの光が反射して、星空のように小さな光の点が見えていたことに気づきます。

 タイトルの「アナレンマ」は、1年間、同じ場所で太陽を同じ時間に撮影していくと8の字を描いて動く運動のこと。その意味を考えていたけれど、タイトル自体は作品の内容とは直接関係ないそう。他の鑑賞者の顔も見えないくらい暗く静かな空間で、星のような光の中を歩き回って…いつまでもみていられるような幻想的な光景です。

2) 頭の中で作り上げる、宇宙規模の壮大な作品

 この展示室の外には展示のアイディアメモや小作品の展示が。この中で気になったのが、《900,000km/s》という立体作品。

画像3

(《900,000km/s》/ 千田泰広 (ポストカード))

 何枚ものギアが組み合わされ、中心のギアを1回転/sで回すと、外側のギアに行くに従って、音速、第一宇宙速度、第二宇宙速度…と回転が早くなっていって、最後のギアは光速の約3倍の速さ(宇宙の広がっていく速さと同程度の速さ)で回転するというもの。でも、実際は中心部をそのエネルギーで回すことは不可能。

 先ほどの展示室の宇宙のイメージとは対照的で、作品そのものは無機質で小さな作品ですが、目には見えないけれど頭の中にはさらに壮大な風景とエネルギーのイメージが広がっていきます。

3) アート?エンターテイメント?

 また、過去の作品の映像展示も。様々な素材と光を組み合わせた幻想的な作品の数々を見て、2019年に長野の安曇野市豊科近代美術館で「千田泰広展」が開催されていたことを知りました。あぁ、これは行きたかった…

画像4

 その図録を購入し、インタビューを読んでいて印象的だったのが、このコメント。

「現代美術の人たちに「美術じゃない」とか「エンターテイメントだ」などと言われることもありますが、それは全く気にしていなくて、良いと思うことをただやっているだけです。」

 千田さんは、建築学科の出身で舞台美術や空間演出等の経験もあるそうで、その舞台のような演出はエンターテイメント的に感じるのかもしれません。でも、目と頭の両方で作品を楽しみながら、「これはアート」「これはエンターテイメント」なんて分類して見てしまうとしたら、それはもったいないように感じました。

「エンターテイメントと自分の作品が違うかなと思ったところは、人ってこれをこうやると喜ぶよね、とするのではなくて、自分でも感じ取れるぎりぎりのところというか、人がこれをわかるかどうか、感じられるかどうかわからないようなぎりぎりのところでやりたいと思っていて。」
「世界の不思議さそのものの、人間の可能性を見たい」

 続くそんなコメントがしっくりとくるような展示でした。

 会期の最終週(2020年2月15日(土)~2月23日(日))には、8日間限定で武蔵野市民文化会館でのインスタレーションも開催されるとのこと。

 武蔵野市立吉祥寺美術館とも近いので、ぜひ合わせてどうぞ。

グレー

【展覧会概要】千田泰広 「イメージからの解放」

スクリーンショット 2020-02-07 20.22.49

会期:2020年1月11日(土) 〜2月23日(日)
会場:武蔵野市立吉祥寺美術館
入場料:一般 300円、高校生・中学生 100円 小学生以下・65歳以上・障害者手帳提示 無料
時間:10:00〜19:30
毎月最終水曜日、年末年始は休館

最後まで読んでいただきありがとうございます。良かったらサポートいただけたら嬉しいです。サポートいただいたお金は 記事を書くための書籍代や工作の材料費に使わせていただきます。