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170年前と現在の”パンデミック”から考える。 「Chim↑Pom 個展 May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」 @ANOMALY (展覧会レポ)

Chim↑Pomは、同じ時代を生きていて、いつも「今」起こっている”居心地の悪いこと”を その瞬間に作品に変換してしまっている。それは、過去の展覧会でも実感し続けてきたことだけれど、今回もそれを体感する展示でした。

Chim↑Pom 個展 May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic @ANOMALY

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1. 自粛下の「東京2020」を封じ込めた作品

展覧会タイトルのとおりの、2つの作品からなるこの展覧会。1つめの作品は、ANOMALYの大きい方のギャラリースペースを使った《May, 2020, Tokyo》。

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《May, 2020, Tokyo》 / Chim↑Pom

緊急事態宣言下で街の人通りも少なくなった5月の間、「TOKYO 2020」や「新しい生活様式」といった言葉でマスキングした看板を青写真の方式で都内の様々な場所でビルボードとして露光した作品。まさに自粛下の5月の東京の空気をそのまま封じ込めた作品です。

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無機質なコンクリートのANOMALYの空間の中に、それらの看板の設置中の映像と完成した看板で構成されたインスタレーションは、廃墟のようでもあり、「青写真」という響きに皮肉も感じられるようです。

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2. 約170年前の”パンデミック”をたどる

もう一つの展示室では、「A Drunk Pandemic」の映像を中心としたインスタレーション。こちらは、2019年にイギリスで製作された「コレラ」に注目した作品。

マンチェスターは産業革命発生の地として知られますが、当時の急激な都市化による劣悪な衛生環境は、コレラの蔓延を引き起こした大きな要因であり、近代都市の上下水道の衛生改革などのインフラ整備は、コレラ対策としてなされたといいます。(ANOMALY Webページより)

イギリスでは1850年ごろに大流行したというコレラ。当時コレラで亡くなった人々が埋葬されたマンチェスターの地下(現在のヴィクトリア駅地下)の廃墟に「ビール工場」を設置し、オリジナルビール「A Drop of Pandemic」を醸造。その直営店としてトレーラー型公衆便所を「Pub Pandemic」(トイレとしてもバーとしても機能する場)として開き、その「Pub Pandemic」のトイレでの来場者の尿が混じった汚水(を消毒したもの)でブロックを製造し、街の補修剤として還元していくという作品です。

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《A Drunk Pandemic》 / Chim↑Pom

作品中では、Chim↑Pomメンバーがバーテンダーとなってビールを販売し、その空間が関係性・場のアートでもあるようでもあって、そしてそれは今では考えられらないような密な空間で。たった1年前の作品だけど、恐らく、当時に見るのと今見るのとでは感じることが全く違うのではないかと思います。

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作品が製作された当時、現在のような新型コロナによる社会の変化なんて想像もしていなかったけれど、新たな伝染病などの脅威に”今までの日常”が脅かされるというのが、過去を知ることで”特殊な状態”というわけではないようにも感じられてきます。

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3. 170年前と現在のパンデミックから考える

「A Drunk Pandemic」は伝染病がテーマで、その犠牲者は直接的には病気に対しての犠牲だけど、今回の作品では、実質的には ”世界中に「パンデミック」した工場化と資本主義社会と労働、都市をベースにした社会システム”による犠牲 として注目されています。

もう一度「May, 2020, Tokyo」の展示室に戻ると、緊急事態宣言の間、出勤してもオフィス街に人気がなく、店もすべて”「自粛」を要請”(変な日本語だ…)されていたあの時間を思い出すような気がし、パンデミックが現在進行中の状態で、「病気」そのものによる被害ではない被害・格差が起こっている状況と「A Drunk Pandemic」を通じて知った過去がつながってくるように感じました。

一方で、”近代都市の上下水道の衛生改革などのインフラ整備は、コレラ対策としてなされた”というように、長期的にみると、”新しい日常”を通じた良い変化も起こるのかもしれませんが。”過去”にならないとそう言うのは難しいのかもしれません。

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緊急事態宣言下の東京で、「自粛で何もできない」と無力感に襲われたり、何かに怒りを向けたりするのではなく、東京の街のなかで「ダークアンデパンダン」展を開催しながらも、《May, 2020, Tokyo》の制作を行なっていたということを知り、ますますChim↑Pomの感度と機動力の高さに圧倒される展示となりました。

「Chim↑Pom 個展 May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」は、7/22(水)までです。

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【展覧会情報】Chim↑Pom 個展 May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic

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会期:2020年6月27日(土)ー 7月22日(水)
会場:ANOMALY(TERRADA ART COMPLEX 4F)
時間:火・水・木・土 12:00 – 18:00、金 12:00 – 20:00
日月祝休廊
*当面の間、開廊時間を12時に変更しております。


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