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「新しいお金」から、お金と信頼の意味を考える。 ー国立奥多摩美術館「国立奥多摩湖 ~もちつもたれつ奥多摩コイン~」 @gallery αM

 「国立」でもなく「奥多摩」にあるわけでもなく「美術館」でもない「国立奥多摩美術館」

(過去に訪問した際のnoteです。)

 この国立奥多摩美術館による展覧会が馬喰町のgallery αMで開催されています。やはり、ただ作品を展示する展覧会ではないようです。

「国立奥多摩湖 ~もちつもたれつ奥多摩コイン~」@gallery αM

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①作家61名による膨大な"コレクション展"。

 地下にあるギャラリーの階段を下っていくと徐々に木の良い香りが…

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 チケットセンターみたいに見えますが、無料の展示なのでそのまま中へ。

 会場内には、61名のアーティストによる作品が所狭しと並びます。府中市美術館で個展を開催中の青木野枝さんや、初監督映画作品のクラウドファンディングを実施中の和田昌宏さんの作品なども。

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 私は初見の作家さんも多数でしたが、館長の佐塚真啓さんによる熱量のある作家全員の紹介のハンドアウトも。展示を見ていると、佐塚さんご本人が今回の展示について熱く解説してくださいました。

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(硬貨をそのまま木製パネルに貼り付けた作品も。5万円分の硬貨が貼り付けられた5万円の作品、。この"作品の価値”とは…?)

 ところで、gallery αMは通常は作品を販売しない非営利のギャラリーですが、今回は購入も可能とのこと。でも、その単位は…「奥(OK)」

②「新しいお金」と「シェアするコレクション」

 今回の展覧会は、「お金」をつくる試み。関係性を作っていくための道具としてのお金"奥多摩コイン"と、それを介しての経済圏の形成をテーマにしているのだとか。

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(奥多摩コイン。単位は「奥」。)

 奥多摩経済圏に参加するための誓約書にサインをして、「奥多摩コイン」(1奥=1000円)と交換します。奥多摩コインは、再び円に戻すことも可能。そのときの換算レートは、(協力者の1分間の脈拍数の総数)×(和田昌宏・永畑智大・佐塚真啓の頭数)とのことで、協力者が多いほど(最大7名)高いレートで換算してもらえるというもの。

 新しいお金といえば、仮想通貨などを思い浮かべてしまいますが、技術を利用した信頼ではなく、アナログな人との信頼、関係、それから文脈を共有した中で成立するお金なんですね。

 ところで、今回展示してある作品は、「国立奥多摩美術館のコレクション」なのに、販売してしまうの?という疑問が。

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 購入した後も、信頼のもとで、コレクション展を行う際には再び集められるのだとか。購入するけれど、一人のものにするわけではなく、緩やかにシェアしている状態になるんですね。ブロックチェーン技術などを活用して作品をシェアリングするサービスなども目にしたりしますが、それらとは異なり、本当に信頼とその意味を共有することによるアプローチのようです。

 わたしも、奥多摩経済圏に参加し、1奥でトートバッグを購入しました。1000円で購入したのと同じ事なのだけど、なんだかちょっと違った価値に感じられる不思議な体験でした。

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③「新しいお金」のもつ意味は?

 ところで、今回の展示の着想の源となったのはミヒャエル・エンデの「モモ」(1973年刊行)という児童文学作品のことで、読んでみました。

(会場にはそのほかにもいくつかの推薦図書が置かれています。)

 「時間泥棒」をめぐる話で、なぜこれが「新しいお金」の発想につながったんだろう?と考えていきました。

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 以下は私見です。モノやサービスの「価値への対価としてのお金」とは別に、「お金を増やす道具としてのお金」があると考えて行った時に。「何か好きなことをする時間をつくるために時間を節約する」のではなく「時間を貯めるために時間を節約する」という物語に描かれた状況と、「お金を増やす道具としてのお金」という手段が目的になってしまうような状況は重なっているのかもしれないなと思いました。

 《奥多摩コイン十ヶ条》のなかでは、「③ 奥多摩コインは、お金を増やすためのお金ではありません。」「④ 奥多摩コインは、人間の力を交換するための道具です。」と規定され、さらにこれを円に戻すときには「やりたいこと」や「協力者」が必要で。「奥」は、「自分にとって価値のあるモノやコト」を手に入れるため”だけ”のお金で、価値を共有する人に自分の時間の一部を渡しても良いと思る、そんな価値観を共有する中だけで成立することができる ”もちつもたれつ” な経済圏なのかもしれないと感じました。

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(奥多摩コインの型。)

 この展示は仕事の後に立ち寄ったもので、普段と同じ通勤電車で帰りましたが、”仕事帰りのいつも通りの光景”に、なんだか違和感を感じてしまう不思議な展示でした。

 「国立奥多摩湖 ~もちつもたれつ奥多摩コイン~」は、2020年3月14日(土)までです。

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【展覧会概要】αMプロジェクト2019「αM+」vol.1 国立奥多摩美術館「国立奥多摩湖 ~もちつもたれつ奥多摩コイン~」

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会期: 2020年2月1日(土)~3月14日(土)
会場:gallery αM
時間:11:00~19:00
※日月祝休


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