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だから「言葉」は、すれ違う

前回、インタビュー取材が「難しい」という話を少ししました。

僕からの質問に答えてくださるお客様のお話に耳を澄ましながら、
「お客様が、今、言い逃したことはなんだろうか」
「僕が今、理解できていないことはなんだろうか」
「お客様はなぜ、今のような言い回しをしたのだろうか」
「なぜ、あちらにいる方は、この方のコメント中に “クスッ” としたたのだろう」
なんてな事をみっちりと考えながら、インタビューをしています。
耳にした言葉の意味を考えながら
目を凝らして観察しています。
すごい頭を使うんですよ。
2時間終わるとクラクラします。

コピーライター、本音の蔵出し #11 「自分の頭で考える」ことの難しさ

多分これ、日本の大多数の人が、ピンと来ていないと思います。

インタビューなんて簡単だと思っている人が多いと思います。
事前に質問シートを作って、一問一答すればOKだと思っている人がとても多いんです。
 ↓ たとえばこんな感じ。

レポーター「映画、素敵でした。日本はお好きですか?」
ハリウッドスター「スシは好きですね」
レポーター「日本食がお好きなんですね。日本のファンに一言お願いします」
ハリウッドスター「日本の皆さんダイスキです。私の最新作、ぜひ見てください」

 ↑ ワイドショーとかでよくありますよね、こういう「取材」もどき。
相手の話を深堀することもないし、
中身も何にもない無駄な時間。

プロのライターを名乗る人でも、一問一答で満足してしまう人が多々います。なんででしょうね。日本人って、そもそも「人間みんな、考え方も暮らし方も違う」っていう前提を持ってない人が多い

だけどね、そんな心構えでは、相手の話を十分に聞き取ることができないんです。相手の考えていることを、正しく理解することはできないんです。

「言葉」は、大抵すれ違うんです。

言葉の裏に潜む情報量の「差」

「話せば分かる」とよく言いますよね。
でも、どんな人とでも話が通じ合うかというと、そうでもない。
話の通じない相手、っていうのは必ずどこかにいるんです。

それは
1.相手の考えを理解しようとしない人
2.言葉の意味を理解できない人
3.言葉の背景を想像できない人
4.自分とは違う考え方を受け入れられない人
5.自分の中で世界が完結してしまっている人

いろんなタイプの「話の通じない人」がいます。

たとえば「反ワクチン」派の中には、「mRNA」の説明が理解できずに
「遺伝子を組み換えられる!」
と騒ぐ人が大勢いました。今もいます。

でも、mRNAに関する研究は、ずいぶん前から行われています。
僕も理化学研究所で、ほんの少しですがお話を伺ったことがあります。

「自分が知らないこと」を理解しようとする努力を放棄して、自分が「そうあって欲しい」と願う、安易な答えに飛びつくのは愚の骨頂です。

一方で、強い副反応が出ることもあるコロナワクチンを疑問視する、普通の人もいます。

僕の友人の中にも、ワクチンを打って発熱した人がいました。
僕は4回接種して、一度も副反応が出たことはありません。
いや、肩がちょっと痛かったかな。
でも、40度近い熱を出した人も現実にいるわけで…。
そんなことも踏まえて、僕はワクチンの「幼児接種」「小児接種」には懐疑的です。

なので僕が
「子供にワクチン打つのは怖くない?」
と聞けば、反ワクチン派の人も
「でしょーーーー! 怖いでしょ!ワクチン怖いでしょ!!」
という風に同調してくれることでしょう。

でもこれ、会話が成り立っているように見えて、その実、まるでかみ合ってないんです。

だって、お互いが言葉に込めた「情報」や「感情」がまるで違うんだもの。

「言葉」って、簡単にすれ違うんです。

身近な相手でも、理解がかみ合わないことは多々あります

先ほどは「反ワクチン」という、ある意味特別な例を挙げましたが、「言葉」がすれ違う場面は、日常の至るところに現れます。

たとえば、夫婦間の「家事」に関する話。

「夫が家事をしない」という話は世間に山ほどあって、
「洗濯した」だけ
「食器洗った」だけ
「ごみを捨てた」だけ

といった “だけ” の作業で「家事手伝ってる感」を出しまくる男が怒られるんですが、これは僕も経験があります。

せっかく洗濯して、干して、たたんで、タンスにしまったのだけど、
「なんでこんなグチャグチャに入れるの。手間が増えるからやめて」
と怒られちゃった。

いろいろ説明するのは疲れるので、日常会話では言葉も省略されがちです。

でも、そうやっていると、細かいところで理解がすれ違っていきます。
すれ違いが積み重なっていきます。

だから、自分が「当り前」だと思っていることも、きちんと言葉にしていくことが大事。

洗濯物のたたみ方も、一度しっかりレクチャーした方(or してもらった方)がいいんです。

属する社会が違えば、何もかも違う。しかし、よくよく理解すれば、大体同じ

同じ世帯で親密に生活している相手でも、言葉は簡単にすれ違うんです。

ならば「違う家族」「違う会社」「違う業種」「違う文化」で生活している人にインタビュー取材を行う際に、いったいどれだけ気を遣うか、分かってもらえるのではないかと思います。

僕の仕事では「医療」や「教育」といった、専門性が高すぎて門外漢にはイメージしにくい話ばかりが出てくる業種の方々にインタビュー取材を行うことが多々ありました。

非常に頭を使います。
冒頭の引用文に書いてある通りです。

同じ日本語を話しているわけですから、話がまったく理解できないわけではありません。

「でも」というか、「だからこそ」というべきか、何となく理解した気になっちゃうのが危険なのです。

たとえば、ヒヤリハット防止(※1)のために、電子カルテ端末として2in1のタブレットを導入した病院で、事例作成のためにインタビュー取材をしたことがあります。

“看護師さんたちが全員、電子カルテ端末としてタブレットを携帯している。そのタブレットは非常に性能がいい。”

という情報だけじゃ、誰にも響かないですよね。病院経営者から見れば「また費用がかかるのか」というだけの話。営業ツールとして、とても弱い。

でも、具体的で臨場感のある業務のストーリーを描き出すことで「なぜタブレット導入が現場の業務改善、ヒヤリハット防止に有効だったのか」が、幅広く伝わるようになります。

だから、いかに深くヒアリングできるかが大事。

たとえば看護師さんが
「全員忙しくて、情報共有も大変で、タブレットがあると便利なんです」
とお話された場合でも
「そうですよねぇ。お忙しそうですものねぇ」
という相槌だけで話を終わらせてはダメなんです。

「門外漢なもので、業務についてもう少し質問させてください。たとえば、この与薬(※2)に関して、どのような点が大変だったのでしょうか」

「情報共有が大変、ともおっしゃられていましたが、それはたとえば、ナースステーションに戻る時間がない、とか、PCが少ない、といったことが原因になりますか」

「タブレットがあると便利、とおっしゃっていただいたのですが、本当のところ『ここが使いにくい』といったことはありませんか?」

といった具合に、話の流れに則しながら、自分自身がきちんと理解できるまで、質問を重ねることが大切なんです。

質問する技術が求められるんです。

そうしないと、実のある取材にはならないんです。

僕にとって医療業界は、未知の世界。
実際に従事したことがないので、知らないことばかりです。
医師や看護師、療法士、薬剤師などなど、皆さんがどんなことに苦労しているのか。どんなことを日々の励みにしているのか。どんなことに心を痛めているのか。
本当のところは分かりません。

だけど、目の前にいる人に「興味」と「敬意」をもって、深く話を聞くことで、いろんなことが理解できるようになります。

言葉の「すれ違い」を減らしていけば、どんな人とも理解を深めあうことができます。

だって、人間なんだもの。

自己主張を強弁するだけじゃ、分かってもらえないのよ

繰り返しますが、言葉に対する理解はすれ違います。
だから、相手の話を「聞く姿勢」が大事なんです。

「あー、この人が本当に伝えたいことはどういうことなんだろう」
という風に気をまわすことが大切です。

同じように、

「あー、どういう風に伝えたら、分かってもらえるだろうか」
という風に、言葉を選んで話すことが大切です。

話す側も、聞く側も、目の前にいる人に「興味」と「敬意」を持つことが肝要なのです。

他人の話を聞く耳を持たない人は孤独に陥るし、
自分本位な話は誰の心にも響かない。

人生、聞き上手な方が得ですよ。
話し上手な人も、実はとても聞き上手なのです。

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※1:医療従事者が医療を行う上で、ヒヤリとしたり、ハッとした経験を有する事例で、医療事故に至らなかった事象を「ヒヤリハット インシデント」という
※2:病気の症状に合わせて、薬を処方して与えること

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50歳に至って、ようやく見えてきたモノゴトなど、肩の力を抜いて書いております。10記事まとめて、マガジンにまとめております(Vol.2は現在進行形です)。

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