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カーボンリムーバル総研④海外におけるNETs/DACの政策動向(アメリカ編 #2)

こんにちは!大気中の二酸化炭素(以下CO2)を直接回収する技術「Direct Air Capture(以下DAC)」の社会実装に取り組む日本初のスタートアップ、Planet Saversの池上です。
少し間が空きましたが、カーボンリムーバル総研、4回目の記事として前回に引き続き、今回もDACに関連した海外の政策動向についての内容をお届けします!
次回はEUについて書くと宣言しましたが、アメリカをもう少し掘っていきたいと思います。連邦制を敷いている米国では、州の自治権が強いこともあり、今回は各州、特にカリフォルニアのCDR(Carbon Dioxide Removal:CO2除去)/DAC関連政策にクローズアップしていきます。

1.Carbonfuture社による全米50州のCDR政策ヒートマップ

ドイツ発のカーボンクレジットのボランタリーマーケットを運営するCarbonfuture社が昨年発表した全米50州のCDR政策に関するレポートでは、米国各州のCDR関連政策をその成熟度に応じて色分けする「ヒートマップ」を掲載しています(下図)。
全ての州の主要な政策内容を纏めたスプレッドシートは非常に有益で良く纏まっていると思うので、是非ご覧ください。

全米50州のCDR政策成熟度マップ

ヒートマップ上では、約半数の州が平均的或いは平均未満のCDR政策成熟度と判定される中、カリフォルニア州とニューヨーク州が飛び抜けて「特に進んでいる・野心的」”Very advanced and/or ambitious”との評価を受けています。今回はこの二州のうち、注目に値すると考られるカリフォルニア州の主要なCDR関連政策内容について纏めてみました。

(出典:https://www.carbonfuture.earth/magazine/exclusive-analysis-carbon-dioxide-removal-policy-across-all-50-us-states)

2.カリフォルニア州の注目すべき政策


2022年9月、ギャビン・ニューサム カリフォルニア州知事(中央)は全米で最も人口の多い同州の気候変動目標を加速させるために署名した法案パッケージについて説明。

①CDRによる排出削減の数量目標

米国では、バイデン政権下、国全体として2050年までのカーボンニュートラルのターゲットを掲げていますが、カリフォルニア州はそれよりも野心的な2045年までの実現を発表しています。
更に、同州は2045年までのカーボンニュートラルターゲットのみならず、同年までの温室効果ガス排出削減総量の15%をCDR(DAC, BECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)等)によって実現するという目標も併せて掲げています。世界各地の気候変動政策を見渡すと、排出削減を達成する為の重要な手段としてCDRを位置づけている国や地域は一定数存在しますが(EU、イギリス等)、CDRによる排出削減目標を明示的な数量で示しているのは、世界的にも珍しい例と言えます。尚、米国の中では、ニューヨーク州が州の購入するCDRの数量目標を設定するCarbon Dioxide Removal Leadership Act (CDRLA)という法案を検討中であり、カリフォルニア州の後を追っています。

CDRのみの排出削減目標を設けることについては、化石燃料から再エネへの切り替え等本来必要である目先の排出削減に取り組むインセンティブを削ぎ、CDRに過度な依存をする「モラルハザード」を引き起こすとの考えもあるようですが、カリフォルニア州のように、カーボンニュートラルターゲットと(その内訳となる)CDRターゲットを同時に示すことによって、気候変動対策に於けるCDRの占める位置をより明確にすることが出来、上記のような「CDR依存」を避けることが出来ると考えられます。

(出典:https://apnews.com/article/california-agriculture-climate-and-environment-2591f7c60f1a143e08b599610dc49fce)

ここで、CDR導入に関する「数量目標を設定すること」の意味合いについて、少し述べたいと思います。エネルギーやインフラといった長期的なスパンで多額の投資が必要となる分野に於いて、新たな産業や技術を育成したい場合、当該産業・技術の導入に係る明示的な数量ターゲットを政府がトップダウンで示すことが政策的に有効であると言えます。
業界は異なりますが、再エネの分野で最近は多くの先進国が洋上風力の導入量目標を掲げており(イギリス:2030年までに50GW、日本:2030年までに10GW等)、これらは再エネ事業者・金融投資家・大型機器サプライヤー・電力を消費するオフテイカー等のプレイヤーの投資予見性を高める効果をもたらしています。

例えターゲット数量を結果的に実現出来なくとも、数量目標の発表は政府による新産業・技術育成に向けた一定のコミットメントを示す効果があり、これにより民間側の投資を促すことが出来ると考えられます。実際、イギリスでは、2019年に「セクターディール」と名付けれらる数量目標(2030年までに30GW)を発表し、これを機に国内外から数多くの事業者・投資家・サプライヤーが洋上風力業界に参入し、2024年7月時点で既に11.3GWの洋上風力発電所が稼働済となっており、同分野で世界をリードしています(イギリスはその後さらに目標値を50GWに引き上げました)。
CDRの世界に於いても、カリフォルニア州のように明示的な数値目標が出てくることで、CDR関連技術の更なる発展・成熟が進むことを当社は期待しています。

②Senate Bill 308

カリフォルニア州ではもう一つ更に着目すべき政策の導入が検討されています。それは現在カリフォルニア州議会の上院法案として提出されているSenate Bill 308(SB308、Carbon Dioxide Removal Market Development Act)と呼ばれるものです。
SB308は、州内の排出事業者が排出し続けるCO2を相殺する為に、CDRを活用することを義務付ける内容であり、これが導入されると、米国初且つ世界初のCDRコンプライアンスマーケット(準拠市場)*1が創設されることとなります。
*1: 企業が自主的にカーボンクレジットを取引する”ボランタリー(任意)市場”とは対照的に、政府によって設定された規制や法的義務に基づく市場のこと。

もう少しこの法案に踏み込んでいくと、先ず温室効果ガス排出削減とCDR夫々別々の目標値を設けることが大前提となっています(上述の通り同州は2045年までの削減目標を発表済)。その上で、2030年から州内事業者は残余排出量(自力で削減しきれない温室効果ガスの排出量)の総量の内、少なくとも 1% を相殺するために CDR を使用することを義務付けられることとなります。更に、この割合は年々増加していき、2045 年までに残余排出量の100%を全て CDR 活動によって相殺することが義務付けられることになります。
例えば、カリフォルニア州全体として、2045年まで温室効果ガスを(CDR以外の手段で)85%削減することが出来たとして、残りの15%を全てCDRで相殺する義務が事業者に課されることとなります。同法案が実際に制定されることで、CDRに特化したコンプライアンス市場が出来、多くの需要と資金が同市場に流れていくこととなり、CDRの技術及び産業が更に発展していくことが期待されます。
尚、最新のSB308の法案の原文も公開されているので、法律・政策策定に精通した読者は是非ご覧になって頂きたいです!もう少し基本的な内容から入りたい方は、Carbon Capture社SB308の重要性についての記事を掲載していますので、こちらもご参照下さい。

当社が加入しているDirect Air Capture CoalitionもSB308を支持しています

以上、カリフォルニア州が如何に気候変動対策に積極的に取り組んでいるかをご理解頂けたかと思います。

3.次回予告:EUの政策動向

次回こそ、EUの政策動向に移っていきます。
その前置きとして、最近発見したポッドキャストを紹介させて頂きます!Carbon Curveという名のポッドキャストで、CDRに関する様々なトピックについて、ほぼ毎回業界の専門家をゲストに迎えてトーク番組のような内容です。カジュアルなトークが基本なので、CDRに詳しくなくとも内容を追えると思います。
この中でも、やや古いですが昨年アップされた、Carbonfuture社のSebastian Manhart氏(Senior Policy Advisor)との対談はEUのCDR関連政策の状況を理解するのに非常に有益でしたので、予告と併せてご紹介させて頂きます。
それでは、次回の投稿も楽しみにしていて下さい!