【短編小説】頭蓋骨に問う
シャーロックホームズは、暖炉の上に置いてあった頭蓋骨代わりにワトソンを傍に置いた。
沈黙の時間を得た相手と話すことは不可能だ。
弓をゆっくりと的に絞るように、引き金に指をかけて対象のみに意識を向けるように、自分の言葉を徐々に徐々に狭めていくための方法だったのだろう。
眼窩に居座る暗闇をじっと見つめ、考える。
私自身も一つ持っている頭蓋骨。
しかし、私は私を見れないから、君には申し訳ないけれど日の下にいてもらう。
本来は土に少しずつ喰われていくはずの白さをそのままに。
本来は時間に少しずつ削られていくはずの静寂をそのままに。
私は君に問うよ、頭蓋骨。
自分のうちから溢れ出るはずの答えを受け止めてくれる君。
私はのろまで早足だから、自分の足元から浮き上がってきた答えの泡を掴み損ねてしまうのだけれど。
君は止まっているからか、器用にその答えを捕まえてくれるね。
そして私に見せてくれるね。
かの頭脳明晰な名探偵のように冴えた答えは出せないけれど、見つめ損ねたものを君は暗闇から見ていてくれる。
これほど深い愛情を、私は知らない。
生々しいよりもよっぽど素敵で、恐ろしく慈悲深く、誰にでも平等な沈黙の愛を。
ためらいがちに、君に触れる。
暖かいわけがないが、冷たくもない。なめらかであるのに、どこかが指に引っかかる。心にも引っかかる。
本当は知っている。
君はここに居たくはないんだってこと。沈黙を受け入れたあの日から、君はあるべき場所に帰りたがっている。
あの日もそうだったよね。私が追いかけて、君は出て行って。
けど、もう大丈夫。
あなたは沈黙を選んで、私は君に答えを求める。
頭蓋骨と目線を合わせる。
深い暗闇、さらさらな白。
生きる人間と死んだ人間を結び合わせてしまった、不思議な時間の流れの中。
ありったけの想いを込めて、そして、私自身への問いも兼ねて。
ねぇ、しあわせ?
頭蓋骨に問う。
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