名前の知らない君の背中を追いかけて

「待ってよ」

 声を張り上げる。けど、お前は振り向いたことなんてない。

 お前は、何時だって、先に行く。

 僕と同じ道を歩いているのに、僕が通るべき道なのに、お前はいつもいつも僕の前を歩いている。

「ねぇ、待ってってば」

 止まらない。こんなに声を張り上げているのに。

 お前は、何時だって、そうなんだ。

 得意にもならず、それがさも当然のことのように、僕が選ぼうとしたものを平然と先に取って、進む。

 僕が望んだものを、お前は形にしていく。

 だから、だからお前のせいで。

 お前のせいで、僕は諦めることができないんだ。

 こんな道、諦めてしまえばいいと、何度、思っただろう。

 これから進む先が茨に満ちているのは目に見えている。

 

 ほら、お前だって、その足から血を出しているじゃあないか。

 

 それなのに、僕も血を流しながらも、足を止めることができない。

 お前が、先にいるから。

 お前が進んでいる姿を見ているから。お前が苦しんでいる姿を見ているから。

 歩くことを止めない、お前を知っているから。

 僕は、お前の影だ。お前は、僕の何だ。

 「待ってよ」

 僕は声を張り上げる。お前はいつもそうだ。こう答えるだけだ。

 「早く来いよ」

 ああ、なんて腹が立つ。

 お前はいったい何なんだ。

 僕を引っ張り上げてしまう、僕を連れ去ってしまう、僕を進ませてしまうお前は、一体なんて言う名前なんだ。

 僕に、「今」を与えてくれるお前は、一体なんて言う名前なんだ。


 問うても、お前は答えない。


 聞いても、お前は笑うだけ。

 

 僕とそっくりな顔で、嬉しそうに笑うだけ。

 



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