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地下鉄道

"『この国がどんなものか知りたいなら、わたしはつねに言うさ、鉄道に乗らなければならないと。列車が走るあいだ外を見ておくがいい。アメリカの真の顔がわかるだろう』"2016年発表、数々の賞を受賞した本書は、19世紀アメリカ南部の奴隷少女コーラの"地下を走る鉄道"での逃亡の旅を描いた傑作。

個人的には、第八回ツイッター文学賞海外編での受賞や、周りの方の高評価が気になって著者の本は初めて手にとりました。

さて、そんな本書は19世紀前半、南北戦争後に奴隷制が廃止される30年ほど前のアメリカ南部の大規模農園で働かされる奴隷少女のコーラが同じく奴隷の青年シーザーに逃亡を助けてくれる、文字通り地下を走る"地下鉄道"の話を聞き共に逃亡、さまざまな州をわたりながら、自由が待つという北を目指していくのですが。

まず、後書きによれば【実在の記録】である衝撃作『ある奴隷少女に起こった出来事』と【風刺物語】『ガリバー旅行記』から着想を得たらしい本書。なるほど奴隷逃亡を手伝う組織の"暗号名"だった地下鉄道を"もし本当に地下の鉄道だったら"と大胆に虚構として登場させている事が象徴するかの様に【リアルな黒人差別】を描きつつも、逃亡中にめぐるアメリカの各州がそれぞれ【別の異世界】として描かれ、その都度コーラ、そして読み手に【難題を突きつけてくる】構成になっているのに感心しました。

また"実際の逃亡奴隷を探す新聞記事"をそのまま使った各章とは別、主な語り部であるコーラ以外の名前が冠した各章も、それぞれの人生を早送りするかのような【痛ましくも無常感溢れる描き方】になっているのが印象に残りました。淡々としつつ詩的な翻訳は【好みがわかれるかもしれませんが】重たい題材ではあるも、一方でエンタメ作品でもある本書に個人的には合ってるように思いました。

分断が進行したトランプ前政権下でおおいに読まれた話題の一冊として、また歴史的事実に大胆に虚構を取り入れた意欲的なハイブリッド小説としてオススメ。

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