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崩れる脳を抱きしめて

"『潮騒を聞くとね、残された時間が波に侵食されていく気がするんだ。脳が中から少しずつ崩れていくような気が』哀しげに微笑むユカリさんの横顔を眺めながら、僕は立ち尽くすことしかできなかった。"2017年発刊の本書は2018年本屋大賞ノミネート作にしてどんでん返しが続く恋愛ミステリ。

個人的には、年末に向けて慌ただしくなる中、手軽に読めそうな本として、初めて著者の本を手にとりました。

さて、そんな本書は父親に捨てられ、借金返済の為に金の亡者と化している研修医の碓氷蒼馬(うすいそうま)が実習に訪れた神奈川の病院で、莫大な遺産を相続するも平均生存期間は約1年といつ死んでもおかしくない"爆弾"のような最悪の脳腫瘍、グリコブラストーマ(膠芽腫)に冒された患者、弓狩環(ゆがりたまき)と出会い次第に心を通わせていくのですが。

まず、全二章で構成される本書。第一章が恋愛小説にして物語の起承転結の"起承"だとすると、第二章からはミステリ小説として"転結"と、わかりやすく構成されており【とにかく読みやすく】また現役医師でもある著者の現場経験や知識に裏付けられた恋愛小説では定番とも言える【"難病モノ"についての批評的視線】も随所に感じられて興味深かったです。

一方でキャラクターの造形や前半の恋愛小説としての心情描写には、著者にとって初めての恋愛小説チャレンジという事もあるのか【ややテンプレートぽい印象やぎごちなさ】を感じましたが。後半のミステリパート、定評あるらしい【どんでん返しがテンポよく繋がっていく】辺りは流石に巧みだな。と最後まで気持ちよく楽しませていただきました。

恋愛小説+ミステリのハイブリッド感を楽しみたい方や"ハッピーエンド"が好きな人にオススメ。

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