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ヰタ・セクスアリス

"丁度好いから、一つおれの性欲の歴史を書いてみようかしらん。実はおれもまだ自分の性欲が、どう萌芽してどう発展したか、つくづく考えて見たことがない。"1909年発刊の本書は掲載誌の発禁処分でも知られる"性欲的生活"を冷静さで淡々と描いた著者作の中では異色の自伝的小説。

個人的にはタイトルこそ知ってはいたものの、ポルノグラフィー?といった先入観から未読のままであった事から今回はじめて手にとりました。

さて、そんな本書は多分に【著者自身と重なる】ドイツ帰りの哲学教師にして、大学講師の『金井湛(かねい・しずか)』を主人公に6歳から始まり、22歳まで年齢ごとに【性にまつわる自分史】を約100ページで描いているわけですが。

ポルノグラフィーというよりは明治期の風俗や、著者視点での学校や社会の様子が主人公視点で生き生きと伝わってきて【爽やかな成長物語として実に面白かった】です。むしろ、本書内には直接的な性描写もないし、現在の過激な小説を読み慣れている現代人の私感覚では、この本が当時、発禁処分にされたのが全く理解できません(笑)

また、著者に関しては真面目な印象を他作品から受けていたのですが。当時流行していた自然主義の『露悪的・特別視する』アプローチではなく、やはり本書でも性欲を(医者として)『科学的かつ客観的な』視点で真摯に描いているとはいえ、本書に関しては【どこかユーモラスな描写も多く】特に上級生から男色を迫られるのをナイフをもって恐れたり、闇鍋への参加を前述の理由で我慢したりする寮生活のエピソードなど、近づきがたい著者への親近感をぐっと近く感じさせる読後感でした。

明治期の風俗、性教育事情を知りたい方へ。また早熟の天才であった文豪の学生時代を知りたい方にもオススメ。

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