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夢酔独言

"男たるものは決しておれが真似をばしないがいい。孫やひこができたらば、よくよくこの書物を見せて、身のいましめにするがいい。"1843年執筆にして、坂口安吾が『堕落論』にて"最上の芸術家の筆をもってようやく達しうる精神の高さ個性の深さ"と絶賛した本書は、勝海舟ファン、歴史ファン以外にも是非オススメしたい。

さて、個人的には熱心な歴史好きとはいかないのですが。『読書狂の冒険は終わらない!』という『ビブリア古書堂の事件手帖』と『R.O.D』の本好き作者たちが対談している別の本で、本書を奇書として熱烈に紹介されているのを見て、興味を持ち手にとりました。

そんな本書は、幕末の英雄、勝海舟の父親にして、江戸時代の下級旗本、有数の剣士であった著者が、学が足りずに【天下無敵のフリーターにして顔役、親分として】放蕩無頼の限りを尽くした人生をいっそ清々しく(一応反省して)水野忠邦の天保の改革で【不良旗本として】謹慎処分を受けていた時に一気に書き上げたものなのですが。

決して洗練されてはおらず、おそらくは事前に構想を練る事もなく、普段の話し言葉そのままに綴られている本書は、子どもの頃から優秀な兄弟に囲まれつつも【馬にのった暴走族?として】火事見物と喧嘩に明け暮れたり、突然に理由なく家出して【ホームレス生活】に突入したりする江戸時代人の無軌道な人生が生き生きと描かれていて、読み進めるうちにツボにはまって、結果として、なんだかほのぼのとすらしてくる突き抜けた読後感でした。

一方で著者自身が(本心かはさておき)"おれの真似をするな"とは言っていても、とかく年を重ねると有名な人ほど本人や周りの人が【過去をねつ造したり、美談化したり】するものですが。それとは違い、著者の素朴な、そのままの文書から伝わってくる"そのままの"優しさ。人が困っていたり、頼まれると断らずにすぐに引き受ける【任侠心溢れる振る舞い】は、確かに息子である勝海舟にも影響を強く与えたのだろうなあと感じました。

勝海舟、坂口安吾ファンはもちろん、そろそろ自伝でも書こうか?と考えている人生後半戦の誰かにもオススメ。親父半端ないって。

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