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100年前の世界一周

"好むと好まざるとにかかわらず、旅は私をかっての自分とはまったく別の人間に変えた。そして誉れ高いヨーロッパが自然からかくも遠ざかり、その文明も文化もおとしめてしまったことを悟ったのだ"2009年発刊の本書は1905年に旅に出たあるドイツ人青年が記録した失われた世界の貴重な記録。

個人的には、近代化によって何が失われたか?に関心がずっとあって、本書にも辿りつきました。

さて、そんな本書は1905年からアメリカ、日本、朝鮮、中国、インドネシア、インド、スリランカなどの世界一周を東回りルートより"静かな旅になるだろう"と一年半かけて、グランドツアー、今で言う"自分探しの旅"に出た上流階級のドイツ人青年、ワルデマールが残した【旅の写真と80才を越えた晩年に記した回想録】に現在のフランス人研究者のボリス・マルタンが注釈や説明的な文を追加した形で構成されているのですが。

やはりコロナ禍で、旅。特に海外旅行に色々と制限がかかっている2021年現在、ワルデマールの当時の感情が伝わってくる豊富な写真や引用される回想文を眺めながら、100年前にタイムスリップして【一緒に世界一周をしているような気分】になれて、単純にとても楽しく。同時に我慢を強いられてる反動でしょうか。激しく旅に、特に海外旅行に出たい衝動に駆られてしまいます。

一方で、ジュール・ヴェルヌによって1873年とワルデマールが旅に出る前に出版された『八十日間世界一周』でも伝わってくる様に、当時主流の考え方、西洋文明の絶対的な優越性を疑っていなかった(現在から見ればある面では差別主義者)ワルデマールが、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』よろしく旅を重ねていく中で【心情や考え方を変化させていく様子】が丁寧に伝わってきて。古今東西、そしてどの時代でも【旅は人を成長させる力がある】と確認させてくれる読後感でした。

近代化、西洋化によって100年前に『失われた世界』に思いを馳せたい方や、世界一周旅行を考えている旅好きな方、写真好きな方にもオススメ。

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