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冷血

"そのとき、眠りに落ちていたホルカムでは、その音−結果的に六人の命を絶つことになる散弾銃の四発の轟音−を耳にしたものはいなかった"1965年発刊【実際に起きた一家4人惨殺事件】に5年間の緻密取材を行って発表されたノンフィクション・ノベルの本書は、著者の代表的傑作にして『ニュージャーナリズム』の始まりの一冊。

最初に言っておくと、ごめんなさい。ノンフィクションとして事件を題材にした小説ジャンルには主に個人的先入観【事実のねつ造や美談化】【著者のふりかざす正義感】みたいなイメージから苦手としていたのですが。重ねて、ごめんなさい。本書は驚かされるくらいに傑作です。圧倒的に面白かった。

さて、そんな本書のあらすじ的な紹介は冒頭で紹介したとおりで、殺人事件として予想される『犯人探し』も意外にも始めの方であっさり開示されるわけですが。何がそんなに面白いかと言えば、二つ。一つはその【徹底取材の緻密さ】被害者と加害者のみならず、登場する全ての人(や動物)にスポットに当て、それが後半にかけて【無駄なく組み合わさってくる構成力】には尋常ではない才能と迫力を感じます。

また、もう一つは明らかに犯人の一人、ペリーに著者自らの不幸な生い立ちを重ねて寄り添っているにも関わらず、描写に関しては突き放すかの様に(私はこの態度がタイトルの意味と感じました)【書き手である自分を徹底的に作中から排除】して、『通常』は重きが置かれそうな『犯行理由や善悪』に関しては【読み手に委ねる俯瞰的態度】です。

何故なら、これは現代にも通じる、事件の度に【安易な犯人探し、正義を振りかざすマスコミ糾弾】に日々触れる世界に生きる一人として、普遍的な意味をもって考えさせられる指摘だと感じたから。(あと、新訳においては、あえて『差別的言葉)を残す翻訳者の姿勢、言葉の選択のこなれ具合もまったく素晴らしい)

実際の事件を題材にした圧倒的に面白い『小説』を探す人へ、また安易な善悪決めつけ報道や『正義マン』の横暴にモヤモヤする人へオススメ。

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