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死の蔵書

"本を読む人間は、大きく二つに分けることができる。ベストセラーを読む人種と、そうでない人種だ(中略)ベストセラーは、ベストセラー・リストに載った瞬間に生命を得て、そこから消えたときにはもう死んでいる"1992年発表の本書は稀覯本取引に絡む殺人事件を古書に関して博覧強記を誇る刑事が追う本好き向けハードボイルド小説。

個人的には著者の本は初めてでしたが"すべての本好きに捧げる"という紹介に惹かれて手にとってみました。

そんなアメリカの優れた推理小説に与えられるネロ・ウルフ賞受賞作である本書は、古本の掘り出し屋(簡単に言えばせどり、転売屋)であるボビーが殺された事件を主人公にして、並外れた古書マニアの刑事ジェーンウェイが癖のある古書店経営者と出会いながら追いかけていくのですが。

個人的には、まず、さながらレイモンド チャンドラーの『長いお別れ』(ロング・グッドバイ)の【フィリップ・マーロウが本好きだったら?】といった印象を受けるハードボイルドなジェーンウェイの古書あるいは本に関するこだわりや知識の量に冒頭から圧倒され(多少ネタバレかもしれませんが)本書真ん中あたりで【あっさり刑事を辞めて】まさかの本屋をオープンさせて第二部が始まるのには驚きました。(同じ本屋としてはワクワクしましたが)

また、本書はいわゆる殺人事件を追う推理小説なのですが。一方で、調査を進める中で出会う【古書店経営者とのやりとり】は、日本と違い再版制度もなく、リスクを追った買い切りが当然のアメリカ書店業界の状態や、主にアメリカ文学の著者たち(ヘミングウェイやフォークナー、スティーブ・キング等)の位置付けがフィクションもあるとはいえ【何となく垣間見える感じがして】とても新鮮で。いわゆるラストの謎解き、犯人当て以上に面白かったです。

ベストセラーというより、どちらかと言えば古書、特にアメリカ文学好きな方へ。もしくは一風変わった『本好き刑事のハードボイルド小説』に興味ある人にオススメ。

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