見出し画像

そこのみて光輝く

"『皆んな知らないのよ。ただの乱暴者だと思っているわ。拓児も自分でわからないのよ』哀願するような眼をした。齢相応に眼尻に皺ができた。チャーハン、うまかった、と達夫はいった。"1989年発刊の本書は"復活"した著者唯一の長編にして第2回三島由紀夫賞候補作。2014年の映画化作品も大絶賛された代表作。

個人的には2010年代になって次々に映画化作品が好評を受ける中、原作が気になって。文壇デビュー作の『きみの鳥はうたえる』に次いで手にとりました。(映画も同時鑑賞)

さて、そんな本書は北の海辺の街を舞台に仕事を辞めてダラダラした生活をしている達夫が、パチンコ屋でライターを貸したことでメシをおごると言い出した社交的な拓児に付き合う形で家族と住む拓司の自宅へ辿りつき、姉の千夏とも出会い惹かれていく。雑誌掲載作の表題作を第一部。そして、その数年後の達夫達を描いた『滴る陽のしずくにも』を書き下ろしの第二部として収録しているのですが。

まず、デビュー作の『きみの鳥はうたえる』の【二人の男と一人の女】物語のヴァージョンアップ的とも言える本書は、同じく全体的に夜がひたすら続くような重たい展開なのですが。登場人物の1人、拓児の暴力を振るってしまう危うさはあるも【底抜けに明るく優しい性格】がとても活き活きしていて。全編を通して救いになっている印象を受けました。(映画では菅田将暉が演じていて、こちらもイメージ通りだと思いました)

また『きみの鳥はうたえる』の主人公、名前の与えられていない『僕』に対して、今回は『達夫』と名づけられた人物(映画では綾野剛が熱演)が働き先ではそれなりに評価を得ているにも関わらず、どこか悶々と【いつも何かを探している】姿は、私にはカフカの『城』と、どこか共通するような印象を受けたのですが。呉美保監督による映画はそのあたりの『本書の良さ』を残したままに【整理した脚本、美しい映像と余韻を残す終わり方】で見事に描いていて素晴らしかったです。

北海道を舞台にした作品を探す人、青春とその残滓を描いたような作品を探す人へ。映画と共にオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?