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武器よさらば

"しかし、彼女たちを追いだし、ドアを閉めて、ライトを消しても、何の役にも立たなかった(中略)しばらくして廊下に出ると、ぼくは病院を後にし、雨の中を歩いてホテルにもどった。"1929年発刊の本書は実体験を元にシンプルな文体で描かれ、2度映画化もされたノーベル賞受賞作家の代表作。

個人的には『移動祝祭日』『日はまた昇る』と読み継いできて、手にとりました。

さて、そんな本書は第一次世界大戦真っ只中、オーストリア軍と戦うイタリア軍に身を投じたアメリカ人青年フレデリックが砲撃で重傷を追って病院で再会したイギリス人看護師キャサリンと次第に恋に落ち『カポレットの惨敗』などの戦況が悪化する中、軍を脱走。キャサリンと一緒に新天地スイスで幸せを掴もうとするのですが。

まず、ページこそ約500ページと割と分厚くもハードボイルド文学の原点とも言われる【独特の削ぎ落としたような簡潔文体】はやはり読みやすく、驚くほどすらすらと読み終えることができるし、また本書では一説によるとスタンダールの『パルムの僧院』−あの映画のカメラワークを先取りしたような圧巻の冒頭描写を参考にしたともいわれるカポレットの混乱極まる敗走シーンは写実的な迫力を感じたのですが。

ただ、元祖ハードボイルド。"黙っていても背中で語ってるだろ"的に余白から【書かれていない感情を読者が読み取らなくてはいけない】のかもしれませんが、どこか虚無的な発言、行動をし続ける語り手のフレデリック。そしてある種の男性からは今でも理想的かもしれないけれど、現代感覚からは古典的なヒロイン、キャサリンは【感情を寄せるには難しかった】

あと、舞台は毒ガスの登場など【何でもありの近代兵器が飛び交う悲惨な戦場】のはずなんですが。フランスやスペインで酒を飲んでは享楽的な日々を過ごす著書の他作品と同じく、本作のフレデリックも【とかくお酒を飲み続ける】わけですが。やはり同じ年にドイツ人作家レマルクが発刊した『西部戦線異常なし』の内容と比べてしまうと"ノリが軽い"というか違和感を強く感じてしまった。

ノーベル賞受賞作家の代表作の一つとして、また翻訳の勉強してる方やチャンドラーみたいなハードボイルド作が好きな方にもオススメ。

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