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和算小説のたのしみ

"和算というと珠算のことかと思われるかもしれません。ところが実際は、和算はそろばんというより、日本で発達した独自の数学で、なかなか奥深く興味深いものです。"2008年発刊の本書は和算小説家自らによる江戸の和算文化自体に関する入門書にして和算文学解説史的なジャンル不定の一冊。

個人的には本屋大賞受賞作にして映画化もされた『天地明察』そして『算法少女』といった作品で和算についてかじってはいましたが、もう少し知りたいと思って本書を手にとりました。

さて、そんな本書は室町時代前期に伝来したそろばん、それを学ぶための教科書『和算書』そして、それを研究した人々『和算家』の話や、お金がなくて出版できなくても成果を誇示する方法としての『算額』や、旅をしながら数学勝負をする『遊歴算家』といった話を【自著も含む和算小説の作品解説や流れも含めながら】紹介してくれているわけですが。

まず西洋と違い、良くも悪くも直接は【科学技術や実用に関わらない形で】日本人らしい工夫と感覚で文化として大名から町民まで身分や職業に関係なく独自に広まっていったことを確認できて、なんとも日本人として共感できる、幸せな気持ちになりました。

また本書の後書きで著者が『理系・文系という分け方を、何とかこの世の中から一掃したい』それに今は【理系・文系両方の素養が必要】になってきているした上で。【(和算でわかるように)江戸時代にはそもそも区分がなかったのだから】と書いていますが。著者自身がエンジニアとして電気メーカーに勤務しながら執筆活動も(おそらくは苦労も重ねながら)こなしてきたからこそ、言葉に説得力があるな。と感じました。

江戸時代の文化としての和算に関心ある方の入門書として、また小説家としてのデビューを考えている方にもオススメ。

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