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サンクチュアリ

"『ねえ、神様ってのはときどき愚劣なことをするけど、少なくとも紳士なんだよ。君はそれを知らなかったかい?』『あたし、【神様】のことはいつも男としてしか考えなかったわ』と女は言った"1929年発刊の本書はヨクナパトーファ・サーガ4作目にして米文学史上最も有名な犯行場面でも知られる一冊。

個人的にはヘミングウェイと並び称されるノーベル賞受賞者にして20世紀アメリカ文学の巨匠であり実験的な手法(=読みづらい)で知られる著者の代表作『響きと怒り』『八月の光』に続く3冊目として、また著者自身が【自分として想像しうる最も恐ろしい物語】と語ったとされる本書が気になって手にとりました。

さて、そんな本書は禁酒法時代のアメリカ、ミシシッピ州にある架空の土地『ヨクナパトーファ群』を舞台にして、事故にあった女子大生が酒を密造している一味の隠れ家に助けを求めたことから陵辱や殺人といった陰惨な事件が起きるわけですが。

著者作の中では【読みやすく初心者向け】と言われる1冊ですが、それでもやはり複雑な語りで。犯罪ミステリーあるいは狂乱のアメリカ社会批判小説として受け止めることは出来ますが【人称代名詞が誰を指しているのか迷わされる様な翻訳、間接的に浮かび上がらせるような表現もあり】私的には読みづらい読後感でした。

それでも、典型的な西洋文明の価値観。人権・正義・理性を代表する理想主義者の弁護士(ベンボウ)があっけなく【南部の非合理性や暴力の前に屈してしまう】後半の不条理な展開、渇いたような残虐さは衝撃を伴って印象に残りました。

実験的な作品が好きな人、勧善懲悪的なお約束作品に飽きてしまった誰かにオススメ。

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