見出し画像

猫の縁談

"『本の好きな人間は本を大事にする。本を労る人間は動物も粗略にすまい』と老人が機嫌を直した。その論理はどうかと思われたが、そうですねとあいづちをうった。"1989年発刊の本書は直木賞受賞作家にして芳雅堂店主でもあった著者による『猫と古本と古本屋』との昭和の香り、抑えたユーモア漂う摩訶不思議な物語。

個人的には『猫、古本』と大好きな言葉に惹かれるままに手にとりました。

さて、そんな本書は著者初めての作品集として、万が一の場合に残される猫たちを心配した孤独な老人が古書を嫁入り道具にもらってもらおうと思いつく、表題の『猫の縁談』通信販売古書店同士の仲介をする回し屋たちと古本屋の腹の探り合いを描く『腹中石』古い文学全集を巡り、過去に裏切りをしてしまったことを告白する書簡体小説『そつじながら』ある古本屋の通夜前に集まった同業者たちの姿を描く『とつおいつ』猫本コーナーを店につくったことで始まる、猫好きの不思議な老女との"濃い交流"を描く『猫阿弥陀』の5作品が収録されているわけですが。

まず、私もかなり本好きだと思っていたのですが、本書で登場する人々のドロドロとした妖気を纏ったかのような【珍しい古本に対する生命をかけたような拘り】は凄まじく、著者の絶妙な筆遣いもあって、何というか。イメージとしては【劇画タッチで登場人物たちが次々に脳裏に浮かんでくるような】迫力に圧倒されました。

一方で、冒頭の表題作『猫の縁談』こそ【抑えたユーモアにおかしみを感じる】のですが、後半の『そつじながら』『猫阿弥陀』は戦中の暗い時代、特高による発禁処分本の取り締まりによって【心に傷を負った人々を描いている】ので(猫の扱いも含めて)全体としては割と重たい内容かな。という印象を受けました。

猫と古本。に反応してしまう方。また、戦前、戦後の昭和の空気漂う幻想的な物語が好きな方にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?