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アランフエスの麗しき日々―夏のダイアローグ

"今日は特別だよ。今日は特別な日。いまは夏で、もしかしたらこれまでなかったような夏かもしれない。もしかしたら最後の夏かもしれない。"2012年発刊の戯曲とも物語ともつかない本書は、2019年ノーベル文学賞受賞の著者による1人の女と1人の男の対話のみで、追憶、ゲーム、審判のように世界と言葉を探る静謐な二人芝居。

個人的には2019年のノーベル賞で著者の名前を聞いた時に何度も鑑賞した映画【ベルリン・天使の詩】の脚本を書いた人なのか!と思ったものの大学在学時に『観客罵倒』によりセンセーショナルなデビューを飾り"文学界のポップスター"とも評された【実験的な戯曲作品】に関しては全く知らなかった事から演劇以外に2016年に映画化もされた本書を手にとりました。

さて、そんな本書は、ある夏の日に戸外のテーブルを囲んで座る男女、名前、年齢、関係性は明示されず、むしろ極力与える情報を【意図して削ぎ落としたような】二人が性的体験、夏についての互いの記憶、旅の思い出について起承転結やアクションもなく【長い対話をし続ける】65ページの短い作品なのですが。最初に思ったのは作中にラテン語、フランス語、スペイン語、英語がしばしば挿入されている事から、原書で読んでいたらまた会話のリズムとか感じられたのかな?という語学の苦手な自分への不甲斐なさ。

一方で、会話劇としてなら兎も角。どうしても物語的な【広がりや起承転結を求めてしまう】本(映画も含めて)といった感覚で本書を読むと、なんとも漠然としてモヤモヤしまうのですが。これはこれで、自分としては一方的に相手に意見を押し付けるのではなく、どれだけ違うや差があったとしても【お互いを尊重し、影響を与えあう】のが対話だとすれば、本書の二人の言葉のやりとりはシンプルなれど終始スリリングとも感じられ、著者は言葉に頼って解決するのを問題にしているわけではなく、実は言葉に依らない『捉えられない世界』を【それでも捉えようとする】衝動や強迫を伝えたかったのかな。と感じました。

実験的な戯曲作品、あるいは実験的な本を探す誰かへ。また『世界は言葉で出来ている』その可能性と限界を考えている誰かにもオススメ。

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