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歎異抄

"善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや。しかるを世のひとつねにいはく、悪人なを往生す、いかにいはんや善人をやと。"鎌倉時代後期に書かれた本書は、混乱する時代に弟子の唯円が親鸞から直接聞いた言葉と、自身の信徒たちへの反論を記し、西田幾多郎他に影響を与えた宗教・思想的名著。

個人的には、一応は浄土真宗だったり、西、東本願寺近くに住んでいるのに親鸞について、ほとんど知らないことから手にとりました。

さて、そんな本書は鎌倉初期、それまで貴族たち上流階級の独占物であった仏教を庶民救済のために引き戻そうとした革新的な法然の『浄土宗』そして、その思想を継承した『浄土真宗』宗祖、親鸞の死後に、その新しさの必然として【教団内に湧き上がった異議、異説といった混迷期】門弟の一人であった唯円(ゆいえん)が、若かりし時に親鸞から直接聞いた言葉が『第一条から第十条』まで語録として、そして信徒達の異議への唯円自身による親鸞の正意を伝えようとした反論が『第十一条から第十八条』として二部構成で収録した書に注釈や解説が加えられているのですが。

まず、歎異抄や親鸞の教えについての宗教的な解説は教団関係者や専門家にお任せするとして、あくまで読後に浮かんだ最初の感想を述べさせていただくと【理解できなくてもテキストが気持ちいい】というか。有名な『悪人正機』善人なをもて〜以外にも音読したくなる言葉たちが沢山並んでいて(内容がつかめなくても)日本人感覚的にテンションが上がりました。

一方で、やはり貴重な親鸞自身の生の声として前半の『第一条から第十条』が興味深い本書ですが、中でも日蓮が『念仏唱えてると地獄行きだ!』と他宗派を攻撃したり、そのことで動揺する門徒を安心させようと実子の善鸞を派遣したにも関わらず、まさかの善鸞自身が『自分は特別な教えを親鸞に伝授された』と異端を広める(=絶縁、破門)といった【教団内の大混乱を背景に】唯円含む門徒たちが京都に住む親鸞に直接質問しに上京した際の問答『第二条』の【激おこぷんぷん丸な親鸞】の激しい言葉。そして『第九条』の他力信心を得た上での悩みを打ち明ける唯円に対する"実は私もだ"と【自身の心境や煩悩を説く親鸞】の素直な言葉が「人間、親鸞」として強く印象に残りました。

浄土真宗関係の方はもちろん、西田幾多郎、司馬遼太郎、吉本隆明、遠藤周作等々に影響を与えた思想書として、また俺が私が的にSNSで『自分は善人!』アピール地獄に突入している人に自戒の書としてオススメ。

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