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市民の反抗

"私の考えでは、われわれはまず第一に人間でなくてはならず、しかるのちに統治される人間となるべきである"1848年の表題講演を含む計6遍の代表的なエッセイを収録した本書は『市民的不服従』の草分けとしてガンディーやキング牧師にも影響を与えた活動家のバイブル、自然讃美に溢れたネイチャーライティングの名著。

個人的にはウォールデン湖畔での2年2ヶ月2日にわたる自給自足の生活を描いた代表作『ウォールデン 森の生活』に次いで手にとりました。

さて、そんな本書は前述のウォールデン湖畔での生活1年目に起きた人頭税の支払いを拒否して投獄された事件を語った故郷コンコードでの講演原稿である『市民の反抗』から始まり、流血を含む奴隷解放運動を展開、処刑されたジョン・ブラウンをいち早く弁護した『ジョン・ブラウン大尉を弁護して』そして、散策を騎士たちの十字軍遠征にも匹敵する心身の健康を保つ行為であると語る『歩く』実践にもとづく自然観察がユーモア交えて語られる『森林樹の遷移』人間社会に流されずに自分の自由を守る大切さを説く『原則のない生活』日本でも内村鑑三、新渡戸稲造、夏目漱石にも影響を与えた当時一流の文学者、トマス・カーライルを批評した『トマス・カーライルとその作品』の計6編のエッセイが時系列もバラバラに収録されているわけですが。

全体としては収録順に冒頭から読んでいくと、まず『市民の反抗』『ジョン・ブラウン大尉を弁護して』と、講演当時の【国や社会に対する憤りが熱量そのままの過激さ】で伝わってきて戸惑ってしまうのですが。『歩く』『森林樹の遷移』『原則のない生活』といった流れには著者の一貫した【自然に対して寄せる信頼】が感じられて安心して癒され、最後の『トマス・カーライルとその作品』には、若者特有の意気込みが感じられて新鮮。といった感想をそれぞれ抱きました。

また、そんな中でも。やはり収録作の中で一つを選ぶとすれば表題作『市民の反抗』ではないかと思いますが、率直に言って著者自身の『税金を支払いを拒否しての投獄』といった元になった"行為自体"は当時においても、もちろん大きな社会活動ではなく、むしろ【自分の自由に従った個人的意思表示】程度だったとしても。そのテキストが【20世紀に入ってから再注目され】インド独立運動や反ナチ運動、黒人人権運動、ヴェトナム反戦運動、そして現在の環境保護運動といった社会活動に広く影響を与えたことを知ると、それぞれの活動家たちが『どのような心境』でメッセージを受け取っていたのだろうか?そんな事に思いを馳せてしまいます。

市民的不服従の草分けとして、NPOやNGO、市民活動に関わる全ての人へ。また、やはりキャンプや田舎暮らしで自然に近い生活に愛着ある方にもオススメ。

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