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西部戦線異状なし

"『僕らはもう戦争のおかげで何をやろうとしても駄目にされちゃったんだね』まさにそのとおりだ。僕らはもう青年ではなくなった。"1929年に発刊された本書は第一次世界大戦をリアルに描き、映画と共に世界的な評価を得た自伝的な名著。ナチスの焚書対象となった事【約90年前、僅か4ヶ月の翻訳から今まで変わらない】名訳も含め堪能したい一冊。

個人的には、様々な作品で『〇〇戦線異状なし』としたタイトルをよく目にする中で、その本家本元?本書に関しても当然に名前は知ってはいたものの読む機会がなかった事から今回手にとりました。

さて、そんな本書は著者の10代での実際の従軍体験を下敷きに『祖国ドイツのために』と教師にすすめられて戦地に向かった学生たちが、次々と命を落としていく様子を、原則として"僕"の一人視点で、ジャーナリストとしての腕前を存分にふるって描いているわけですが。容赦なく生々しい人体損壊描写や(当時の新型兵器)毒ガスや史上初めて投入されたタンク(戦車)への対処についてなど、第一次大戦の様子をリアルに描いた本は少ない様に思えることから【まず、戦争小説として貴重な作品では?】と思いました。

また一方で、確かに凄惨な状況ではあるのですが、それでも冒頭の(隊員150人が、直前の戦闘で半分以上戦死した為)食料を腹一杯食べられる!と、仲間たちと喜ぶ様子や、"僕"が同じ隊員達と【どこか感覚を麻痺しつつも】10代後半から20代の若者らしいユーモアを交えつつ友情をあたためたり、休暇で戻った故郷で投げかけられる大人たちからの無責任な言葉や、敵のイギリス兵を殺した事に傷つくナイーブな姿からは【青春物語としての普遍的な一面も感じさせ】こちらはこちらで、よく描けているな。と感心しました。

ちなみに、他の方のブログで知ったのですが、日本語訳が出た後に脚本の多くが検閲により伏せ字になりつつも早々に"それでも"舞台化され、観客達から割れんばかりの拍手や歓声があがったそうなのですが。そんな厭戦感情があったにも関わらず、本書発刊から【僅か約10年後には】泥沼の第二次大戦、大平洋戦争に突入してしまった史実を考えると、何ともやるせない気持ちになります。

世界中、あるいは隣国との政治的緊張感が高まる中で、戦争の悲劇は再び起こしてはならない。と強く思っている誰か、焚書や検閲について考えたい誰かにも【アカデミー最優秀作品の映画と共に】オススメ。


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