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小津映画 粋な日本語

"登場人物の多くが、ごくふつうの日常語である『ちょっと』という形をめったに用いず、いつもそれを『ちょいと』と崩した語形で愛用しているという事実は、小津映画の世界を象徴しているように思えるのだ。"2017年発刊の本書はファンである著者が小津映画の日本語、気遣い、哀歓について解読した一冊。

個人的には、小津映画を観ていて『いやア』とか『よくって?』『ねえ』といった台詞まわしが印象に残っていたので、タイトルに惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は日本語研究者の著者が、小津映画の【セリフに潜む魅力を解説する】のはもちろんの事、より広く小津監督の生き様や美的こだわり、そして結果として【作品に保存されている古き良き日本】恥じらいを知っていた時代の風景、家庭の温かさや人への思いやり、礼儀正しさや立ち振る舞いの美しさについても再確認させてくれるのですが。

率直に言って小津映画作品を【ある程度観ていることが前提となっている】本書。私的には『麦秋』『東京物語』は鑑賞済であった事から、独特のローアングル、カメラを固定した画面、リズミカルに繰り広げられるも、意図がぼかされた会話などを思い出しながら、1人の映画好きとしてエッセイ的に楽しく読まさせていただきました。

一方で、小津映画の余白【説明ではなく描写に徹した作品】が、志賀直哉を尊敬し『城の崎にて』をはじめとする【文学作品の影響を大きく受けて】『では、けれど、だけれど、だがしかし、こんなもろもろの接続詞は無い方がいい』と結実していることを本書ではじめて知って、『写実の名手』志賀直哉の芥川龍之介や川端康成といった小説家にとどまらない影響力の大きさに驚かされました。"小説の神様"すごい。

小津監督の作品好きはもちろん、古き良き日本文化を考察したい人にもオススメ。

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