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ソーネチカ

"夜ごと、梨の形をした鼻にスイス製の軽量メガネをかけて、ソーネチカは、甘く心地よい読書の深遠に、ブーニンの暗い並木道に、ツルゲーネフの春の水に、心を注ぐのだった。"1992年発表の本書は"神の英知"を愛称とし本の虫でもある女性の『平凡な一生』を知的かつ静謐に描いた『非凡な物語』

個人的には、WEBで紹介されている書評記事を見て興味を持ち、手にとりました。

さて、そんな本書は子供の時から本好きなまま育った女性ソーネチカが必然の様に勤務する事になった図書館で反体制派として地下活動をしていた歳上の芸術家、ロベルト・ヴィクトロビッチと偶然に出会いすぐに結婚、奔放に育つ娘を授かり幸せな年月を過ごすも、ある時、そんな最愛の夫の秘密を知ってしまうことになるのですが。

読み進めながら、まず、モーパッサンの『女の一生』を思い浮かべつつ、あちらより派手さはなくも【愛情や幸せに溢れ】むしろ個人的にかなり好みだった『平凡な男のありふれた一生を美しく描いた』ジョン・ウィリアムズの『ストーナー』の女性主人公版といった印象を持ちましたが、いずれにしろ人生の午後世代の1人として、また文化芸術に関わってきた立場としてはソーネチカに訪れる"愛の試練、そして選択"はどこか彼女なりに【確かに幸せだったのだろうな】と理解できるように思えました。

また翻訳も素晴らしくて、とても読みやすく。第二世界大戦、そして熱狂的で凄まじいスターリン時代といった激動の時代を経済的には決して裕福でなくも逞しく生き抜いたソーネチカたちの姿、彼女らが暮らすロシアの大地に遠い島国から想いを馳せながら【決して派手さはなくも素敵な一生だな】と、読み終えて本を閉じてからも、しみじみと浸りました。

ありふれた一生だけど美しい。そんな物語が好きな人や、とにかく読書や文学が好きな人にオススメ。

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