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アメリカ(失踪者)

"カール・ロスマンは、いましも汽船が速力を落としてゆるゆるとニューヨークの港に入って行ったとき、ずっと前から目をそそいでいた自由の女神の像がとつぜん一段とつよくなった日光にまぶしく照らし出されたような気がしたものだ。"1927年発刊の本書は『孤独の三部作』中、最も具体的な物語。

⁡個人的には著者の長編、いわゆる『孤独の三部作』のうち『審判』『城』は既読であったので、マックス・ブロート刊行時『アメリカ』、現在は著者の予定していた『失踪者』と呼ばれる本書も手にとってみました。

さて、そんな本書は著者の実際の【従兄弟のエピソードに着想を得て書かれた作品で】年上の女中に誘惑されたばかりに、両親にやっかいばらいにされた16歳の美少年、カール・ロスマンが故国ドイツから未知なる新世界アメリカへと渡る事になり、ニューヨークの裕福な叔父にしばらく面倒をみてもらうも一転、何とも【不可解な理由で追い出されて】放浪の旅を続けることになってしまうのですが。。

まず、他の二作『審判』や『城』あるいは『変身』といった他の代表作のイメージから、同じく【抽象的、明確に語られない世界観】かと思いきや、著者が【ディケンズ風のロマン小説(!)を書こうと意識した】とも言われる本書。映画タイタニックを何故か彷彿とさせるような、いかにも"新世界で冒険が始まるぞ!"という冒頭からの現実的な描写、また、他の長編二作の『記号的なK』に対して【善良で正義感溢れる】理想的な主人公カール・ロスマンといった主人公の人物設定には戸惑いと、率直に言えば(自分の求めている)【カフカ作品はコレじゃない】と強烈な違和感を感じました。

また一方で、せっかく他の長編二作にくらべて、理想的であり古典的でもある主人公を登場させているにも関わらず【取り巻く登場人物に関してはやはりカフカエスク(不条理)】で、主人公に心情を重ねながら読み進めると【異様にストレスフルな展開】なんですが(しかも未完)どこか『あっ、こちらはカフカらしい』と安定感を覚えてしまうのは良いのか悪いのか?いずれにしろ【インディーズのパンクバンドが突然、王道ポップバンドに路線変更したような】戸惑い続けた読後感でした。

抽象的な一般イメージとは一味違う作品として。また著者の『想像力だけで描かれたアメリカ』の描写に興味ある方にもオススメ。

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