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贈与論

"贈与・交換の原則は(中略)貨幣が循環する市場、本来の意味での売買、とくに計算され、名前のついた貨幣で評価される価格の概念には達していなかった社会の原則であると考えて良いだろう"1925年発刊の本書は古代社会の慣行を比較考察『互酬的な贈与』を明らかにし大きな影響を与えた先駆的名著。

個人的には主宰する読書会の課題本として、またウィトゲンシュタイン哲学研究者による『世界は贈与でできている』を読んだ時に、わかりやすくもモヤモヤ感があったので、手にとってみました。

さて、そんな本書は西洋文明、資本主義が人間を『経済的動物』に変えてしまったと考えた社会学者、文化人類学者の著者が、一章から三章にかけて太平洋や北米の古代社会の慣習、ポトラッチやクラ。古代ローマ、古代ヒンドゥー、ゲルマンの法や宗教の慣行における【伝統的・儀礼的な交換】を考察。四章における結論として贈与が今日想像するような経済的な『富の蓄積や利益の確保』だけではなく、法、道徳、宗教、経済、身体的・生理学的現象といったものを含む【『全体的社会現象』の一つに過ぎない】とし、行き過ぎた資本主義社会の改善を提案『構造主義の祖』レヴィ=ストロースやバタイユなどの多くの思想家に影響を与えたとされる一冊なのですが。

なるほど、訳者あとがきにもあるように豊富な資料から様々な社会の比較研究を行っており、そのため各章の【注釈も言葉の意味も含めて、かなり細かく解説している】のですが。ただ、率直に言えば【著者の社会理想が全面に出過ぎている】ように感じ『論文』としては、全体的に【客観性に欠けている】ように感じました。

ただし、太平洋やアメリカの先住民たちを『未開や低級』と下層に捉える。現在感覚では【当然に間違った考え方や見方】が当時の西洋社会では支配的だった時代において、敬意をもって、彼らから学び、考察を図った【著者の先見性は素晴らしい】と思うし、結果としての『贈与』の捉え方は、グローバル資本主義、通貨経済に限界が感じられる【現代社会においても未だに通じる、一石を投じる考え方】だと刺激的でした。

古典的名著としてはもちろん。『お金のやりとり』だけを指すわけではない交換行為『贈与』に興味ある方にもオススメ。

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