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貨幣システムの世界史

"貨幣はけっして無限の空間のうちに流通するのではなく、歴史上あらわれた貨幣には、一方で空間的にまとまりをもった流通をしようとする性向があり、それゆえにまたいっぽうで空間を越えて流通する貨幣も現れるということである"2003年発刊の本書は貨幣現象を【歴史から問い直した】刺激的一冊。

個人的には猫も杓子もキャッシュレス化の流れの中、あらためて貨幣について考えてみたい。と本書を手にとりました。

さて、そんな本書は世界貨幣史、中国経済史の専門家にして東大教授の著者がオーストリアの法貨という枠を【時代や距離を越えて】遠く離れたアフリカ・西アジアにおいて『越境する回路』として流通していたマリア・テレジア銀貨の紹介から始まり、現在は当然な事として捉えている【一国一通貨原則以前の】多様性に満ちていた世界史における【貨幣の在り方】を紹介しているわけですが。

銅貨の中国、銀貨の西欧がモンゴル帝国によって(日本も含めて)互いに影響を受けていたとする仮説話や、中国では【何らの公的許可もなしに】現地商人が発行していた【現地通貨】があった一方で、西欧では小額であっても信用取引が行われて内部化された【決済通貨】と地域によって貨幣の『違う在り方』があったという指摘は、丁寧な論旨展開も相まって知的好奇心を多いに刺激してくれました。

また、本書では補論として『東アジア貨幣史の中の中世後期日本』が追加されているわけですが。こちらでは、土に貨幣を埋める行為や、通貨の年号を例に【現代人の常識で安易に推論してしまう】事に強く警鐘を鳴らしていて。近年の電子マネー、ビックデーターによる【効率化、最適解依存】が【想定外の変革可能性を消し去っているのではないか?】といったあとがきでの言及も含め、著者の研究者としての短絡的に判断しない慎重さを感じて好感を覚えました。

貨幣から見えてくる野心的な世界史に興味がある歴史好き、またブロックチェーンやキャッシュレス化に関わっている人にもオススメ。

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