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万延元年のフットボール

‪"かれらはこれに参加することで、百年を跳びこえて万延元年の一揆を追体験する興奮を感じているんだ。これは想像力の暴動だ"1967年発刊の本書は60年代、70年当時の安保闘争と共振しつつ、ノーベル賞受賞者の著者にとって"私"から"神話"の創造へ。執筆活動の大きな転換点となった代表作。

個人的には主宰する読書会の課題図書の一冊として著者作は『同時代ゲーム』に続く2冊目として手にとりました。

さて、そんな本書は友人の奇妙な自死、障害児の出産、安保運動など【それぞれに心に傷を負った人物たち】が故郷の四国の村に到着、ある事をきっかけにして100年前の一揆をなぞるように暴動が起こるわけですが。

先に読んだ『同時代ゲーム』同様に観念的な告白やイメージが続く冒頭こそ読みづらかったものの(意図的?)どこか【異様な緊張感のあるフットボールチームの結成】の中盤から後半にかけて次々と反復的、メタファー的な出来事が出現、そしてラストの【悲劇からのどんでん返し、再生】といった流れがフォークナーの影響、昭和的な同時代の濃さ、柳田國男や折口信夫の民俗学的土着さ、そしてサルトルの実存主義、構造主義を取り込むカオスさで【迫力をもってごっちゃ煮的に展開されていて】夢中になって読み終えました。

また、読んでいる時は全然気づかなかったのですが(また本人は否定しているらしいのですが)村上春樹の『1973年のピンボール』が本書のパロディと柄谷行人に指摘されている事を知ったのも小さな驚きでした【全体の印象は全く異なりますが】確かにタイトルだけでなく『本当のことを言おうか』のセリフ、翻訳の仕事や友人の自殺、鼠、そして『穴の中へ降りていく』とパーツ的には重なる部分に(ハルキストの方には悪いですが)【これは確信犯だな】とニヤリとしました。

中上健次や村上春樹、そして中村文則といった作家たちに影響を与えた一冊として、また60年代から70年代の昭和の時代的空気感を追体験したい人にもオススメ。

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